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リノベーションが注目される理由とは?

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既存の建物を活用し、新たな空間を生み出すリノベーション。

今なぜ、これほどまでに注目されているのでしょうか。
今回はリノベーションに対する関心が高まっている背景について、ご紹介します。

スクラップ&ビルドからストック活用型へ

日本の住宅は寿命が短い!? 

住宅が建てられてから取り壊されるまでの期間は、平均何年ぐらいか知っていますか? 
日本の住宅の寿命は、世界に比べると短命です。
こちらのグラフをご覧ください。取り壊された住宅の築年数を国ごとに比較したものです。

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    「長寿命化リフォーム」の提案Ⅶ 【住宅ストックの長期使用・性能向上・資産化に向けて】」一般社団法人 住宅リフォーム推進協議会, p.5

日本の住宅の寿命は平均約32年と、極端に短いのが分かります。
なぜ、こんなに短いのでしょうか。決して、日本の住宅の性能が悪いということではありません。
これは日本では、いわゆる「スクラップアンドビルド」を続けてきたからです。海外ではどこかトラブルが出てきても修理して使い続けます。ところが、日本では修理すればまだ使える建物でも、壊して新しく建て替えるということをしてきたのです。

修理しながら長く使い続けるメリット

海外のように、まだ使える建物を壊さずに使いつづけることにはメリットがあります。

ひとつは「エコ」です。
業種ごとに産業廃棄物の排出量を見てみると、平成25年度の建設廃棄物は全国で約8,035万トンでした。これはTOP3に入る排出量の多さです。

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    環境省『平成27年度産業廃棄物排出・処理状況調査』

また、これから「スクラップアンドビルド」の対象になる建物も増えていきます。昭和40年代以降に急速に増えた建物が老朽化してきているのです。
環境負荷を下げるためには、まだ使える建物を上手く活用していくことも大切でしょう。

もうひとつのメリットは「暮らしの豊かさ」です。
一生のうちに、自分が使うお金を考えてみます。まず必要なのは、日々の生活費。それから、住まいにかかる費用があります。それらを引いた残りが自由になるお金です。生活のゆとりになる部分ですね。
このお金を日本とヨーロッパで比較してみると、こんなイメージ図になります。

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日本は生活費と住宅にかかわる費用が大半を占め、少ししかゆとりがありません。一方、ヨーロッパでは住まいにかけるコストを前の世代が一部負担してくれているので、当世代は住宅にかかわる費用が抑えられ、ゆとりが大きくなります。

この、ゆとりの差がまさに、修理しながら長く使い続けることのメリットです。
ヨーロッパでは建物を長く使い続ける文化が根付いています。リフォームにかける費用は日本の何倍も多いのですが、結果的には、住まいにかかる費用全体では30年ごとに新築する日本よりも少なく済んでいるのです。
ヨーロッパでは、リノベーションで資産価値が上がると、住んだ後、購入時よりも高く売れることもあります。リフォームやリノベーションをしながら世代を越えて受け継がれて、質の良い建物が残されていくのです。こうして次の世代に質のいい住宅ストックを残していくことで、社会全体にもっとゆとりを生み出していくことができるのです。

日本でも「使い捨て」の状況を改めるため、2000年代の後半からは住宅政策が切り替わってきました。使える建物は活用していくように、そして、そもそも長く使うことを前提につくるように社会を変えていこうとしています。

空き家も増えてくる

2008年に日本の人口はピークを迎えました。これから人口は減っていき、後30年もすれば1億人をわる見込みです。
一方、住宅の総数は増加の一途をたどっています。すると、どうなるでしょう。
空き家の割合がどんどん増えていきます。
下のグラフを見てみてください。こちらは空き家の増加を示したものです。

  • 1806122
    「長寿命化リフォーム」の提案Ⅶ 【住宅ストックの長期使用・性能向上・資産化に向けて】」一般社団法人 住宅リフォーム推進協議会, p.3

ここにきて空き家が急速に増えているのが分かります。そして、これから増えるスピードが加速していきそうです。

空き家というと、管理されずに放置されている家のイメージがあるかもしれませんが、昨日、引越して出て行ったばかりで入居者募集中の家も空き家としてカウントされます。ひとつも空いている家がないと引越しができませんから、ある程度の空き家は必要です。
それでも、あまりにも多いのは問題でしょう。そして、現在の空き家率は問題になるレベルの多さに近付いてきています。

長い間、人の住んでいない家は傷んできますし、防犯や防災上の問題も出てきます。
このまま増えるに任せるのではなく、既存の住宅も上手に活用しながら、人の数と家の数のバランスをとっていくことが重要です。

中古住宅の活用に向けて社会が変わってきている

とは言っても、長く新築が良いとされてきたわけですから、いきなり今日から中古といっても抵抗があるでしょう。「やっぱり、中古は心配」という感覚があるのも当然です。リフォームやリノベーションに踏み切ろうにも情報が少なく、躊躇してしまうこともあるかもしれません。
そこで、中古住宅に対する心配をぬぐい去るために、国でもさまざまな取り組みを行っています。

たとえば、どれが良い中古物件なのかを分かりやすくするために、住宅の性能評価の制度がつくられました。また、建物の調査を行い、現状を評価するホームインスペクションの仕組みもできています。ホームインスペクターという専門の資格をつくったのです。専門家が詳しく診断をしてくれれば、欠陥がないか、どんなリフォーム・リノベーションが必要かといったことが分かり、安心です。

後で、設備のトラブルや雨漏りなどの瑕疵が見つかった場合のために、保険も充実させました。

また、住宅を長持ちさせるためのリフォーム・リノベーションに対して資金面での支援をしたり、リフォーム・リノベーションに関する情報提供や相談窓口の設置をしたり、さまざまな角度から中古住宅の活用を支援しています。

リノベーションが注目されているのには、国として中古住宅を活用していこうという社会背景があるのです。

ライフスタイルの変化

中古に対する抵抗感が薄れてきた

住まい手の側にも変化は起きています。住まい手はなぜリノベーションに関心を寄せるようになったのでしょう。

ファッションでも何でも、最近は「古い=悪い」という価値観は薄れてきています。
昔は「人が使ったものなんて……」「古いものなんて、みっともない」と新しいものが好まれましたが、今はアンティークやビンテージなど、時を重ねたものの良さも見直されるようになってきました。インテリアで言われる「シャビー」なんかも、そのひとつでしょう。

どんなにモノがあふれていても、「歴史」や「時間」はお金で簡単に買えるものではありません。古いものの持つストーリーを楽しむ、という新しい価値観も広がっています。

それに、昔に遡れば、古くなったものを繕ったり継いだりして、モノを大事に使う精神は日本にもありました。冒頭でヨーロッパとの住まいに対する価値観の違いを紹介しましたが、良いものを大事に使っていこうという文化は、ヨーロッパのものだけではないのです。

「新しいか古いか」だけではない、別のモノサシを多くの人が持つようになってきています。

そうした情緒的な面のほか、コスト面から見ても、中古をさける理由はありません。
今、住まいの購入を検討する世代は「コスパ」を重視するミレニアル世代。「コスパ」で考えれば、新品にこだわるのは非効率です。割安で中古を手にいれた方が、コーディネートやカスタマイズを楽しむ余裕が生まれます。

「家に合わせる」から「自分に合わせる」へ

これまで、日本の住宅は効率重視でつくられてきました。住む人それぞれの使い勝手を気にしていると効率が悪いので、標準的な規格をつくります。間取りやデザインは誰にでも受け容れられる無難なものです。これを大量生産すれば、早く安くたくさんの家がつくれます。
けれども、そこで快適に暮らせるのは「平均的な家族」だけです。平均から外れる部分は自分たちが家に合わせて生活を変えることになります。

たとえば、平均より背の低い人はキッチンの吊り戸棚にモノを出し入れするために、踏み台を用意しないとなりません。これは自分に合わせてキッチンをデザインしてあれば、必要のないことです。

働きかたも生活スタイルも、家族構成や家族関係も多様化している今、型通りの家で満足できる人はどれだけいるでしょうか。
もう効率を優先しなくても、住宅の数は充分すぎるほどにあります。
住まい手個々の好みや生活スタイルに合わせてデザインできるリノベーションが注目されるのは、自然な流れなのかもしれません。

また、今は自分らしさや個性が重視される時代でもあります。
世の中一般で良いとされているものよりも、自分たちがカッコいいと思うもの、素敵だと思うものを大事にしたい。そういった思いを持つ人も多いでしょう。

今まで、衣食住のなかでもあまり注目されてこなかった「住」ですが、少しずつ「住」を楽しむ文化も広がってきました。DIYに挑戦したり、自宅のインテリアをWEB上でシェアしたり。
リノベーションは「住」を楽しむ選択肢のひとつです。住まいにも自分らしさを求める時代なのかもしれません。

最近、流行のリノベーション。注目の背景には、日本の「住」の質を上げていくという社会的な側面や、もっと「住」を楽しみたいという住まい手の価値観の変化がありました。
リノベーションは一時のブームではない、日本の住まいが大きく変化していくなかで生まれてきた、新しい住まいの選択肢でもあるのですね。

監修:佐藤剛(ゼロリノベ

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