部屋の窓から見下ろすと、そこには江戸時代、東海道を京都に向かう人や、伊勢参りに行き交う旅人の姿が見えてくるかもしれません。ここは東海道五十三次、五十三番目の宿場町、滋賀県大津市。今では空き家の目立つこの場所も、その昔「大津百町」と呼ばれ、活気に満ち溢れていました。「あの頃のように大津に来てほしい」そんな強い意志を持つ人たちの手によって町の新しい未来の扉が開かれようとしています。
宿場町からメディア型ホテルへ
琵琶湖が六分の一を占める滋賀県大津市には、世界遺産で知られる『比叡山延暦寺』のほか、『石山寺』という観音霊場があります。また、『枕草子』や『更級日記』に登場する有名な場所。そんな歴史の色濃く残る町並みの一角に商店街をまるごとコンテンツ化したソーシャルメディアホテルが誕生しました。
入湯税のようなステイファンディングを組み込むことで、大津の商店街や町おこしのために寄付を行い、活性化に取り組むという日本で初めての試みがなされています。ホテルをメディア化し、街の魅力を知ってもらうこと、多くの人に宿泊してもらうことでその土地を潤すプロジェクトになるのです。
企画と運営は雑誌の発刊も手がける『自遊人』。事業オーナーは滋賀県で高品質な木造住宅をつくる『谷口工務店』が取り組んでいます。そこにあるのは「棟梁の心意気」と「メディアの使命」。新しいものを創り出すことは、同時に古き良き日本の魅力を再発見することになっていくのではないでしょうか。
リノベーションされた7棟の古い町家は商店街の中に点在しています。すべての建物は築100年を超えるものばかり。
以前は呉服問屋の大店であった建物からは、反物を採寸する小僧さんや、そろばんをはじく番頭さんたちが、あちらこちらで忙しく接客する様子が浮んできそうな店構えです。
また花街として栄えた頃に使われていた長屋には、小唄や三味線のお師匠さんが住んでいたような雰囲気がうかがえます。
このプロジェクトで重要だったのは、当時の梁や土壁を活かしながらも、快適に、長期間使えるものに生まれ変わらせること。そして、現代の技術である断熱や防音などの補強工事を取り入れることで、これからの100年も使えるものにすることでした。つまり、建物を強化するだけではなく、歴史を未来につなぐ大切な役割を担う意味があったのです。
フロント棟のある『近江屋』はJR大津駅から歩いて約7分の場所。ここには宿泊者専用のラウンジのほか、ツインの部屋が3つ作られています。
近江屋の3軒隣にあるのが茶屋。元茶商の家を改装したこの一棟にはジュニアスイートを含む様々なタイプの5部屋が用意されました。
さらに1棟貸しの町屋が5軒。『丸屋』、『鍵屋』、『萬屋』、『糀屋』、『鈴屋』と名付けられたそれぞれには、その場所ならではの雰囲気を味わうことができそうです。書斎を設けたモダンな作りのものから、大正期に建てられた格天井や茶室を思わせる床柱が見られるものが作られ、どの部屋に泊まろうかと迷ってしまいます。
町屋の立ち並ぶ細い路地には、お地蔵さまが見守っていてくれて風情を楽しむことも。また、アーケードになっている商店街には、琵琶湖で捕れる新鮮な淡水魚が並ぶ長等商店街の川魚専門店『タニムメ水産』や、昔ながらの手作りが味わえる漬物屋『八百与』といったレトロな空気に触れることができそうです。
室内にもこだわりは尽きません。ベッドはすべてアメリカのシーリー社製のものを採用し、羽布団は京都の高級寝具を扱うIWATAで統一。また、椅子やソファはデンマークデザイナーの「世界一の座り心地」と言われる家具を使いました。
畳に座布団という町屋スタイルは、今や日本人でも辛いもの。ゆったりとくつろぐことのできるスタイルを提案してくれます。
大津市は、京都からJRで2駅9分の便利な街。
東海道五十三次の宿場町がかたちを変えて輝き始める時、それは旅人の姿が絶え間なく行き交う交流の場になることを意味するのかもしれません。
江戸の風を感じる町家を訪ねてみてはいかがでしょうか?
商店街HOTEL 講 大津百町
全棟スイートの一棟貸しタイプ5棟と大きな町家を間仕切りしたホテルタイプ2棟8室。
9,900円(ホテルタイプ客室1室2名利用時の1名料金)~というリーズナブルな料金でひとり旅からファミリーまでご利用頂けます。
チェックイン :15:00~21:00
チェックアウト:11:00
〒520-0043 滋賀県大津市中央1-2-6
TEL: 077-516-7475
公式サイト:http://hotel-koo.com/