vol.00 「生活という舞台」はじめに
こんにちは、Q本かよです。築37年の中古マンションを買ってリノベーションした様子を綴ったコラム『正直なすみか』の連載を終え、1年あまりが過ぎました。この家にもずいぶん慣れて、あのとき、間取りとにらみ合いながらああだこうだと描いていた未来のなかで、今は生活をしています。その生活のありようを、またコラムとして綴らせていただくことになりました。どうぞよろしくお願いします。
俳優をやるようになって、もう何年になるだろうか。
大人になってから、わたしはとつぜん演劇をはじめた。演劇をやる人間の多くは、中高で演劇部だったり、大学の演劇サークル出身だったりするので、わたしはスタートが遅いことへの劣等感がつよくて「ぺーぺーなんです、デヘヘ」と卑屈に笑いつづけている。とは言えいつのまにか、出演した作品の本数を数えなくなったし、知らない人がわたしの名前を知ってくれていたり、芝居を褒めてくれたり、「共演したいと思ってました」などと言ってもらえるようになった。思ったよりも長つづきしているなと思う。わたしは俳優の仕事がすきだ。
俳優として新しい作品に取り組むとき、たいていの場合、役をもらう。自分ではない誰かの人生をあてがわれる。だから台本を読んで、その人物をできるかぎり想像する。このひとはきっと、こんなふうに育って、こんな部屋に住んで、こんなごはんを食べて、こんな服を着ている。そういうディティールを、延々想像したりする。いわゆる「役作り」にはひとそれぞれのやり方、考え方があると思うけれども、わたしはまず「生活」のことを考えて、そのあとに感情がついてくる、みたいなイメージだ。そうやって設定を積み重ねることで、本当にそのひとが「いる」みたいになる瞬間があるし、積み重ねる作業そのものがすきだ。そうすることで、自分に与えられた役を、愛していくことができる。
リノベーションは、これに似ていた。築37年の中古マンションを買ってリノベーションをしていたとき、わたしはわたしという役を想像しながら、プランを練っていたように思う。どんな間取りのどんな部屋で、どんな生活をしたら、この役を愛せるだろう。そういうふうに考えながら、すべてを決めていったのだった。(その幸せな過程は、またべつのコラムにまとまっているので、よろしければ読んでください。『Mansion Renovation Document 正直なすみか』)
つまりわたしは、この部屋で日々、わたしという役を生きている。生活という舞台に立って。登場人物はおもに、夫と犬と、わたし。演出、わたし。観客も、おもにわたし。ここは、稽古がない日のほとんどを家の中で過ごす、わたしによる、わたしのための舞台だ。わたしはわたしの役をまっとうしたい。きちんと片付いた清潔な部屋で、可能なかぎりおいしい料理をつくったり、めぐる季節をひとつひとつ数えてみたり、していたい。そういう日々を思い描いて、リノベーションをしたのだから。
この『生活という舞台』は、そんなわたしの生活のありようを、月々の季節の風習とともに紹介するコラムです。理想を描いたリノベーション、その後、のおはなし。わたしはわたしの役をまっとうしたい。けれども、できるかわからない。元来が大雑把で怠け者、という設定を背負ってしまっているし、何よりわたしは、まだまだペーペーなんです、デヘヘ。
それでは、そろそろ開演します。一生懸命「生活」するので、どうぞご笑覧くださいませ。
タイトル写真/Photographer : つかだふ(Twitter @tsukadacolor)
中古を買ってリノベーション by suumo
中古を買ってリノベーション by suumo (2019Spring&Summer)
「リノベーションと暮らしのカタチ」の事例として、表紙/特集ページにて紹介されています。