vol.01 並んだ付箋とフジコさんの話

夫と妻と、犬が一匹。築37年の中古マンションを買って、リノベーションをする話です。

快適な家をつくりたいなら、嘘はつかないほうがいい。
最初に思ったのは、そのことでした。

「衣替えは、基本しません」
「化粧品は、洗面所に出しっぱなしになる前提で」
「洗濯物をたたむという作業が大嫌い」

はじめてのプラン打ち合わせの時、わたしの口から出るのはそんなだらしのない言葉ばかり。
これは、とても残念なことであったと言っていいでしょう。

わたしとて、世に言うところの「丁寧な暮らし」に憧れがないわけではないのです。できることならば、まめで、料理が好きで、掃除が好きで、靴磨きが好きで、アイロンがけや染み抜きが得意で、衣替えや年末の大掃除といった季節の行事を、微笑みをたたえながら一つ一つこなしていくような、そんな人間だと思われたい。しかし、今ここでそんな見栄をはったら、この先絶対に後悔することになると思ったのです。だからわたしは、腹をくくったのでありました。

恥ずかしいけれども、じぶんのことを、正直に話そう。
そして、正直なじぶんが住むのに、ちょうどいい住みかをつくろう。

そんな気持ちであったわたし。と夫。あと犬が一匹。
が、暮らすマンションが出来上がるまでのお話を、少しずつ。
書いていこうと思います。

家族紹介

family

初回のプラン打ち合わせ

「ぜんぜん整理ができていないんですけど。大枠の話と枝葉の話がごちゃ混ぜなんですけど。思いつく限りの要望を、付箋に書いてきました」

と、打ち合わせテーブルに勝手にどんどん付箋を貼り並べながら喋るわたしの、正直でだらしない要望を、フジコさんは真面目な顔をして聞いてくれました。フジコさんというのは今回のリノベーションをお願いした会社、株式会社ニューユニークス(以下nu)のプランナーさんで、ウェービーなロングヘアがよく似合うきれいな女のひとです。

これはほんとうに傲慢な見方であるし恐縮なのだけれども、マンション・リノベーションはおそらく一生に一度の大きな買い物であるし、プランナーさんとの相性はとても大切だと思っていたのです。nuの方からは「プランナーの指名制はないんです」と言われていたけれども、ピンとこない人であったら多少ゴネるくらいの覚悟はあったものです。ゴネずにすんでほんとうに良かった。そして、今でもやはり思います。プランナーさんとの相性は大切。我々は幸運であったと思います。結果的にわたしは、フジコさんのことがとても好きになりました。

  • IMG_7563
    現状の間取り図と、我々の要望を照らし合わせながらイメージをかためていくフジコさん。

実はわたくし、プランナーさんが女性だと聞いて、(マリメッコのワンピースを着たゆるふわ系のひとが出てきたらどうしよう……)と警戒しておりました。決してマリメッコが嫌いなわけでも、ゆるふわ系のひとが苦手なわけでもないのですが、ただ、設計をお任せするという点において不安があったということです。それはつまり、わたしがいわゆる「北欧系」があまり好きではない、ということと関係していて、だってマリメッコのワンピースを着ている設計士と言ったらそれはもう100%北欧崇拝主義者じゃないですか? マスターピースは「かもめ食堂」、Yチェアこそ至高の名作、じゃないですか? もちろん偏見ですけれども、わたしはそう思っていて、こちらの要望すべてに北欧フィルターがかかった提案が返ってきて、それをいちいち修正する作業が発生するとしたらこんな面倒くさいことはないな、と勝手に想像して勝手に不安になっていたわけです。

しかし実際にあらわれたフジコさんは、ざっくりとした白いシャツに黒いパンツというシックな装いで、全然ゆるふわではありませんで、わたしはほっとしたわけでした。

  • IMG_7657
    打ち合わせ前日に、あわてて撮った手持ちの家具・家電類。番号にそってサイズを書いた表も別で用意。

初回のプラン打ち合わせには、

「お持ちの家具や家電の写真、寸法や商品名・品番のメモ書き等」
「雑誌の切り抜きや画像等(お気に入りの空間や施工事例等)」

を用意してくるように言われていました。リノベーションをすると決めてからというもの、インテリアの雑誌とみれば買い集め、気に入ったものを切り抜いてあったので、(いよいよこれらが役に立つときがきた!)と前日の夜には気合が入ったものです。

思うがままに要望を書いたたくさんの付箋(実際は写真の倍くらいの枚数がありました)は思いつきで用意したものですが、我ながらよい方法だったように思います。こういうふうに書いておけば、たとえば後から「キッチン」「寝室」とエリアごとに分けたり、優先順位で並べ替えたり、整理がしやすいです。誰の要望か分かるように付箋の色を変えたりするのもよいかもしれません。(フジコさんからは「付箋を並べたひとは初めてです」と言われたけれども)

わたしたちの要望

付箋には例えばこんなことが書いてありました。

  • 本棚たくさんほしい
  • 洗面所は2ボウル並べたい
  • LDK広く
  • きょくりょく仕切らず
  • キッチンは吊す収納で
  • 服はとにかく吊るしたい
  • ひとが泊まれるように
  • 食器棚はオープンがよい
  • 収納の中にコンセントほしい
  • 床にちりとりの箱
  • リビング日当たり大事
  • 大きいダイニングテーブルおきたい

etc…

そんな感じで、とにかく要望につぐ要望を伝えた初回打ち合わせでありました。

ただ一つ、細かい要望とは別に、フジコさんに繰り返し伝えたことありました。それは「これから暮らしていくなかで、エピソードを重ねる余白を残して完成させたい」ということです。リノベーションの工事が終わったら、もう完璧! いちぶの隙もない完璧な住空間! になっている、ということはまったく望んでいなくて。たとえば気に入った椅子をひとつひとつ増やしたりだとか、旅先で買った絵を飾ったりだとか、そういう、住みながら空間を育てていけるような、ラフな状態からスタートしたいなと、そう思っていました。

それから2週間後、フジコさんからはA案、B案、C案の3パターンのプランの提案がありました。緊張のファーストプラン。次回はそのことを書きます。

::

ちなみにわたしは映画「かもめ食堂」はけっこう好きです。気に入りの北欧雑貨もいくつか持っている。だから「北欧系」が苦手なのではなく、「北欧大好き! 北欧系ならなんでもかわいい!」というような過剰な北欧崇拝の風潮が苦手ということかもしれません。どうか誰も気を悪くされませんように。

Q本かよ

qmoto_ap

俳優/コピーライター/デザイナー
舞台を中心に俳優として活動する傍ら、雑誌、広告でコピーやデザインの仕事を手がけている。
2017年に中古マンションを購入しリノベーション。夫と二人暮らし。曇天という名の犬もいる。