夫と妻と、犬が一匹。築37年の中古マンションを買って、リノベーションをする話です。
家族紹介
我々は、広いダイニングが欲しかった。
不思議なことであるけれども、この「広いダイニング」に関しては、互いに口に出さずとも夫とわたしは同じイメージを共有できていたように思います。部屋に入ったときに、すかんと視界が抜ける感じのする、広いリビング・ダイニング・キッチンが欲しかった。とくにダイニングに関しては、これまで住んだ部屋には無かった空間なので、余計に憧れがありました。大きなダイニングテーブルのある、広いダイニングを作りたい、と。
完成間取り図
この人口密集都市・東京において、78平米というのは、べらぼうに広いというわけではないかもしれないけども、夫婦2人と犬一匹で暮らすには、そこそこの広さであると思います。その78平米を、我々夫婦は、こんな風に使うことにしました。
これを見て、思う人は思うと思います。
「空間の無駄使い……!」
それはそうです。暮らすことの便利さだけを考えれば、もっと壁をつくって、収納を増やすという選択肢もあったと思います。だけど、我々はそれを選びませんでした。なぜならば、すかんと広がる空間で暮らすことが、夢だったからです。洞穴から出て、日当たりのよい、風のよく通る、広いLDKで生活したいというのが、今回のリノベーションのいちばん大切なポイントだったからです。
「蓄積」よりも「循環」を目指したい
思うのですが、収納を増やせば増やすほど、ひとは物を持ちすぎてしまうのではないか、と。
間取りを考えるうえで、収納問題は重要です。そして収納を考えるうえでは、「思い出の蓄積をどこまで許容するか」という大きな問題があると、わたしは思います。
個人的な話になって恐縮ですが(このコラム自体もともと個人的な内容ではあるが)、わたしには実家がありません。なので、各種卒業アルバムをはじめ、幼少期、学生時代の思い出はすべて自分で、自分の部屋で、所有しなければなりませんでした。そこで身についた感覚として「思い出はそんなに蓄積できない」ということがあります。
物を増やしていくことはできます。というか、生きていると勝手に増えていってしまう。けれども、思い出をたどる時間やエネルギーは有限だなと思うのです。昔は使い捨てカメラで撮影していちいち現像していた写真が、デジタルカメラになってどんどん保存できるようになったと思えたけれども、データにもやはり重さはあるわけで。そしてその膨大な思い出たちを実際に取り出して懐かしむのは、あるとしても年に一回、大掃除のときなどにたまたま見つけて手を止める、あの時間くらいではないでしょうか。
そのたったひと時の感慨と対比してみると、「思い出」とはなんと重たくかさ張るものであろうかとわたしは思います。だから、わたしはけっこう「思い出」を捨てがちです。
冷たいでしょうか。冷たいのかもしれません。けれども、整理されずに無尽蔵に増えて管理しきれなくなったものは、イコール、失ったも同然であると思うし、結局のところ、物を捨ててしまっても記憶に残ったぶんだけが、自分の「思い出キャパシティ」だったのだなと、割り切るようにしています。
欲しいものは無限にあるし、片付けだって上手ではないし、決してミニマリストのつもりはないのですが。ひと一人が(あるいは二人が)生きていくのに、持てる思い出にも、使える道具にも、限度があることを知って、その分量ぶんの収納を作りたいなと思ったわけです。
いつかの何かのための収納量を確保するよりも、今、目の前にある「生活」を心地よく循環させるための空間があればいいな、という、間取りです。
同じ空間で別々のことをするのが、家族
「ワークスペース」というのはわたしの仕事場のことです。夫は会社があるので家でほとんど仕事はしませんが、わたしはフリーランスなので基本的に仕事は家でします。なので「ワークスペース」は、デスクとパソコンと仕事の資料もろもろがある場所、というイメージです。
これがこの場所にこの向きである理由は色々あるのですが、大きなポイントとしては、
・犬がさみしくないように
・キッチンとの距離
・わたしがさみしくないように
というものです。
まず、曇天(犬)は室内のトイレで用を足すタイプの犬なので、トイレに自由にアクセスできる部屋に置いておく必要があります。だから例えば、曇天のトイレがある部屋とは別の部屋にわたしの仕事場がある場合、夫のいない日中ずっと曇天を放置している状態になるわけです。実際、大阪のマンションではそうでした。曇天はさみしそうでした。もともと犬を飼いたかったのは夫であって、わたしはとくに愛犬家ではないというか、むしろ犬が苦手だったのですが、せっかく同時に家に居るというのに、さみしいのは可哀相だなと思うわけです。
そしてもう一つ、わたしは仕事をしながら家事もやりたいのです。料理をしたり洗濯をしたり。その場合、キッチンとデスクに隔たりが無いと、やんわり火の様子をうかがいながら煮物を作ったりできて便利です。
そして最後は、夫の帰宅後、いっしょに晩ごはんを食べた後はたいていテレビでバラエティ番組を観てゲラゲラ笑っているのですが、食器を片付けたり、緊急の仕事が残っていたりすると、わたしもテレビを観たいのにリビングから離れなくてはならず、かわいいことを言うようで恐縮ですが、それがとてもさみしいです。
だから、キッチンに立ちながら一緒にテレビを観られる、夫がゲームをしているのを眺めながら仕事を進めることもできる、曇天のイビキも聞こえてくる、リビング・ダイニング・キッチン・ワークスペースが同じ空間にあるこの配置は、さみしくなくてとてもよいと思っています。
謎の洗面台のこと
最後に、「うちの間取りでもっとも不思議なポイントはここだぞ」と夫に言われ続けている、ワークスペース横の洗面台の話をします。
vol.01 並んだ付箋とフジコさんの話にも書いたのですが、もともと我々には「洗面所は2ボウル並べたい」という要望がありました。これは、出かける際に身支度のタイミングが重なり洗面所まわりでわちゃわちゃするのが嫌という理由だったのですが、我々が購入した物件は、購入の時点ですでに全面リフォームが施されていたので、ピカピカな新品の水回りを壊すのはさすがに勿体なすぎるだろうということで、お風呂・洗面所・トイレのエリアはそのまま残すという選択をしたのです。
するとつまり 「洗面所は2ボウル並べたい」が叶わなくなってしまったのですが、やはり、わちゃわちゃするのは嫌、ということで、フジコさんと相談して「別の場所に洗面台をつけましょう」ということになりました。最初はなるべくもとの水回りと近い場所で考えていたのですが、いろいろ検討するうちに、この場所になったのです。
わたしは時々仕事で絵の具を使うのでワークスペースの横に水場があるのはうれしいし、そのうちベランダで何か育てたりするかもしれないことなどを考えると、この洗面台の位置は非常に便利そうで、2ボウルは叶わなかったけれども、結果オーライであったように思います。
そんな感じで、とりあえず平面図における間取りは完成しました。
フローリングの話までしようと思っていたのに、長々と書いてしまったのでまた今度。間取りが完成するともう終わりが近いように思われるかもしれませんが、リノベーションはここからが大変でした。床の色、壁や天井の仕上げ、レンジフードの種類、電源の位置、電気のスイッチのデザイン、などなどなどなど。決めることが山のようにあるのです。なのでコラムも続きます。何をどこから書こうか迷いながらではありますが、今後ともどうぞよろしくお願いします。