夫と妻と、犬が一匹。築37年の中古マンションを買って、リノベーションをする話です。
家族紹介
生活をするうえでわたしが大切だと思っていることの一つに、なるべく多くの時間を「好きな時間」として費やす、というのがあります。
それはつまり「(好きな時間の)対価として費やす時間」を減らしたい、という話でもあるのですが、どういうことかと言うと、まず、わたしは掃除機をかけるのが好きではありません。理由は明確で、うるさいからです。一方で、きれいな部屋は好きです。きれいな部屋でおいしいお茶を飲む時間は「好きな時間」です。けれども、掃除機はうるさくて好きではないので、掃除機をかけている間については「対価のために費やす時間」という認識になります。この「対価として費やす時間」をいかに「好きな時間」に変換できるかが、生活を愛せるかどうかの肝であると、わたしは思うわけです。
掃除機は嫌い、箒がけは好き
わたしは家にいるとき、よっぽど集中しなければならない仕事のとき以外は、音楽を流しているか、ラジオを聴いているか、テレビをつけています。掃除機の何が嫌かと言うと、あの大きな音のせいでそれらを一旦中断して埃を吸引することだけに向き合わねばならないし、その吸引音は決して耳に心地いいものではなく、つらいです。ちなみにわたしはエアコンや換気扇も「音がうるさい」という理由ですぐに消してしまう(寒かったり臭かったり状況としては必要であるのに)ので、何かしらそういうところがあるのかもしれません。
そして、リノベーションを始める少し前、わたしは思い立ったのでした。
「そうだ、箒で掃こう」
何がキッカケであったのか思い出せませんが、そう思ったわたしは想像してみたのです。音楽やラジオを聴きながら、さっさっと床を箒掛けするさまを。
とてもいい、と思いました。これならば、「対価のために費やす時間」ではなく「好きな時間」として掃除ができそうだ、と。そして、インターネットで「箒」の情報収集をし、比較検討を重ねた結果、山本勝之助商店の箒を2本、買ったのでした。
もろもろ端折って「そうだ、箒で掃こう」と言ってしまいましたが、他の案にもいちおう言及しておこうと思います。まず、音が嫌ならクイックルワイパーを使えばいいじゃない、というご意見もあるでしょう。クイックルワイパー(に代表されるあのアレ。呼び名がわからない)は、静かだし、埃や髪の毛もよくとれるし、便利。間違いありません。ただ一点、わたしはあの佇まいがどうしても好きになれず、今は持っていません。
あとは、ダスキンモップも検討しました。じつは大阪にいた頃、使っていましたダスキンモップ。ダスキンは、モップも使いやすいし、最後にゴミを吸ってくれるクリーナーの使い勝手もよいのですが、このクリーナー(置き型の掃除機みたいなもの)、わりと質量があって邪魔なのと、やっぱりあのプラスチック特有のつるっとした感じが、部屋に置くには好ましくないと感じます。
結局、道具そのものとしての美しさで箒に軍配があがりました。好きになれないもの、好ましくないもので掃除をしてもそれは「好きな時間」にはなり得ないわけで、気に入りの道具を持つことが大切だとわたしは思います。
掃き掃除でいちばん嫌いなこと
山本勝之助商店の箒はおもいのほか人気で、入荷までにひと月ほどかかり、みんな箒が好きなんだなと励まされる思いでしたけれども、箒が届き、実際に掃き掃除を始めたわたしは、ひとつ大きな壁にぶつかりました。
ちりとりが嫌いすぎる。
さっさっと床を掃くのは、想像したとおり「好きな時間」となりました。しかし、集めたゴミを最後にちりとりで取るのが、面倒くさすぎるのです。まず、もう一つ道具を出さねばならない時点で億劫なのですが、それ以上に、ちりとりという作業を、気持ちよく完了することができないことが問題で。なんならこれは幼少期、学校の掃除の時間から思っていた気がするけれども、ちりとりって、残るでしょう、ゴミが。ちりとりのきわ、線になって。ちりとりを引いては掃き、引いては掃き、最後は箒を縦にして細かく掃き入れてみたりしても、どうしても「よし、かんぺき、とりきった!」とは、ならない。「まあ、こんなもんか」みたいな感じで、やんわり掃除が終わる。あれが嫌。不満でした。
そして不満が先にあると思うと、やる気がおきない、ちりとりを出す気さえおきない、果てはせっかく箒で集めたちりをそのままちりの塊として放置する始末。その塊を見た夫に不可解な顔で見つめられる始末。でありました。
「ちりとりの箱」
さて、今回ここまで延々とわたしの掃除論を展開してきましたけれども、ここからやっとリノベーションのお話です。覚えてらっしゃる方がいるでしょうか。このコラムのVol.01「並んだ付箋とフジコさんの話」のなかに書かれた、「わたしたちの要望」の項目……
付箋には例えばこんなことが書いてありました。本棚たくさんほしい洗面所は2ボウル並べたいLDK広くきょくりょく仕切らずキッチンは吊す収納で服はとにかく吊るしたいひとが泊まれるように食器棚はオープンがよい収納の中にコンセントほしい床にちりとりの箱リビング日当たり大事大きいダイニングテーブルおきたいetc…そんな感じで、とにかく要望につぐ要望を伝えた初回打ち合わせでありました。
お気づきでしょうか。下から4行目、「床にちりとりの箱」という謎の要望。これが、このちりとり問題へのわたしの答えなのでした。この初回打ち合わせのときに、わたしはフジコさんにこんなメモを渡したのです。
分かっていただけるでしょうか。
わたしが思うに、掃き掃除でいちばんよい終わり方は、段差の下に掃き落とす、というやり方だと思うのです。それならばスッキリ掃ききることができる。だから、そのための段差と、段差の下でゴミを受けとめる箱があれば、もはや「ちりとり」は不要なのでは? と考え、この初回打ち合わせで意気揚々とその名案を発表したのです。
初回打ち合わせには、担当の営業さんと、フジコさんと、フジコさんのアシスタントさんが同席していたのですが、全員がまあまあ困惑していました。隣に座る夫からも(それ本当にいる……?)という空気が漂ってきましたけれども、わたしにとっては考えに考えた末の超名案だったので、ひるむことなく「絶対に作ってほしい」と押しとおしたのでした。
そして、施主が押しとおせば、そのとおりになるリノベーション。すごい。
得てして、箒で床を掃く時間はわたしにとって「好きな時間」となりました。ちりとりの箱は使い勝手を考えて丁寧に作られていて、わたしの面倒くさい要望にこたえてくださった現場監督のスーさんには感謝するばかりです。ちりとりの箱、便利なので他の現場でもぜひ使ってくださいとフジコさんに伝えてあるのですが、この超名案を採用してくれる方が他にもいたらうれしいです。
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さて、これまで箇所箇所のこだわりに関する話をピックアップして書いてきましたが、次回は全体の流れと現場打ち合わせの話などを少し書きます。図面が形になっていく「現場打ち合わせ」がわたしはとても好きでした。