夫と妻と、犬が一匹。築37年の中古マンションを買って、リノベーションをする話です。
家族紹介
ニュアンスのある白、がわたしは好きです。あまり関係ないですが、「白い紙に 白い色鉛筆で 君のこと好きだって書いた」というすこし前のテレビCMのコピー。箭内道彦さんが中学生のときに考えたというあのコピーは、とてもいいですね。あまり関係ないですが。
キッチンにはタイルが必須
このコラムの冒頭で書いているのですが、わたしはいわゆる「北欧系」が苦手です。なんというか、角が丸くて、あたたかみがあって、ほっこりする、という印象のものがあまり好きではない(かわいいと思うことはあるけれども自分の住まいとしてはなんだか居住まいがわるい)のです。なので、いちばん最初にフジコさんに「キッチンタイルはどんな感じにしますか?」と聞かれたとき、「タイルって、必要ですか……?」と聞き返しました。タイル貼りのキッチンと言われると、どうしてもほっこり志向の北欧系のイメージがわいてしまって、拒絶反応が出そうになったのです。
ところが、フジコさんによると「キッチンタイルは必要」とのことでした。正確に言うならば、なくても別に構わないけれども、水場のメンテナンスを考えるとタイルを貼っておいたほうがかなり安心、という話でした。つい見た目のことばかり考えてしまっていましたが、そうか、お風呂やキッチンにタイルが多いのは、タイルが水に強いからか、というすごく当たり前っぽいことにそのときやっと気がついたのでした。メンテナンス性は大切。よし、タイルを貼ろう。
途方もないタイル選び
タイルを貼ろう、と決めてから、貼るタイルを決めるまでに、ずいぶんと時間がかかりました。いちばん最初にタイルのイメージを聞かれたとき、わたしは「なんか、六角形、八角形?の、細かいやつ、とか?」と曖昧なこと口にして、フジコさんが「蜂の巣タイルですかね」と次の打ち合わせにサンプルを用意してくれ、それは確かにイメージした通りのものであったにも関わらず「なんか違う……」と首を傾げるといった調子で、なかなかこれといったイメージに辿りつけずにいました。
迷いつづけるわたしに、フジコさんから宿題が出されました。「ここと、ここと、ここ、のメーカーに、WEBカタログがあるので、いいなと思うものを選んで教えてください。そうしたら、次回打ち合わせまでにサンプルを取り寄せるので」と。この宿題を、わたしは一生懸命やりました。教えてもらった全メーカーの全商品をくまなく見比べたわけです。
そして、気になった商品に片っ端からしるしをつけているうちに、あることに思い至りました。タイルだからって、タイルタイルしてなくてもいいのだ、と。「タイル=空間のアクセント」という固定観念にとらわれていたけれども、そんなことはなくて。そう、白い紙に白い色鉛筆で書いたラブレターのように、さりげなくそっとそこに存在していてもよいわけで。キッチンの白い壁には、白いタイルを貼ろう。そう閃いたのでした。
白という色は、影が映えるところがいいところだとわたしは思っています。だから、白いんだけれどもちょっと変わったテクスチャであるとか、真っ白だけれども凹凸の影がきれいに落ちて立体的に見えるとか、そういうものが好きです。白く塗ったコンクリート(躯体あらわし)の壁に、ほんのりとニュアンスのある白いタイル。長々と悩んだキッチンタイルは、このイメージで、やっとしっくりきました。
タイルの並べ方
タイルは結局、マリストの「La chic」に決めました。色は「Desert」という、すこしグレーみのある白に。バロック調の柄はハッキリ出るとうるさいけれども、白に白で一部分だけうっすら出るのであればちょうどよいし、購入予定のアンティーク家具などとも調和がとれそうだし、数種類の柄をバラバラに並べればあまりタイルタイルしすぎることなく、「いや、タイルちょっと余ってたんで……」みたいなラフな佇まいになるといいなと思いつつ。
そしてここからわたしが、タイルの並べ方に謎のこだわりを見せてフジコ先生を困らせるターンがありつつ。
わたし「柄をバラバラに並べたくて」
フジコ先生「じゃあ、同じ柄が並ばないようにと指示しておきますね」
わたし「あっ、同じ柄が並んでもよくて、むしろちょっと並んじゃったところがあるくらいのほうがよくて……」
フジコ先生「……」
わたし「あんまり、バラけましたーという感じよりは、ほんとうにランダムに、規則性のない感じにしたくて……」
フジコ先生「かよさん、現場きて並べてもらうことってできます?」
わたし「……ですよね笑」
後日、工事中の現場に足を運んで(と言ってももとの家から徒歩2分の場所ですけれども)、タイルを見比べながら「これはこっちで、これはこう……するとここがこっちになるから、こうで、こう」とブツブツ言いながら、誰にも伝わらない地味な美意識を発揮して、タイルの順番を決めたのでありました。
最初は気が進まなかったタイル選び、迷いに迷って決まったタイルがいまはとても気に入っています。シンプルでユニセックスな部屋にしたいと思っていたし今も思っているけれども、白に白を重ねたおだやかなバロック調の柄のほのかな女性らしさはキッチンという場所によく馴染んでいて、タイルを貼ってよかったなと思います。
あと、カタログというカタログをくまなく眺めた結果、ひとことで「タイル」と言っても大きさ、形、材質、用途までめちゃくちゃ色々あるのだなと驚いたので、家づくりを検討しているみなさまにおかれましては是非、タイルメーカーのカタログ読破をおすすめしたいです。「なるほどね、こういうタイルもアリね」って、なると思います。