vol.13 長月にソファ。新たな存在感に、もの思ふ秋。
わたしはこの部屋で日々、わたしという役を生きている。登場人物はおもに、夫と犬と、わたし。演出、わたし。観客も、おもにわたし。ここは、芝居の稽古がない日のほとんどを家の中で過ごす、わたしによる、わたしのための舞台だ。このコラムは、そんなわたしの生活のありようを、月々の季節の移り変わりとともに紹介するコラムです。理想を描いたリノベーションコラム『正直なすみか』その後、のおはなし。
とびきり大きなソファを買った。夫とわたしが二人同時に横になっても事足りる、とびきり大きな、L字のソファ。「注文してから一ヶ月半かかります」と購入した店に言われていた。それが届いた。待ちに待った、大きなL字型のソファ。
大きさを、きちんと測ったはずだった。床にマスキングテープで印をつけて、メジャーで高さを想像して、「大丈夫、ギリギリいける」と納得して買ったはずだった。それでも、ソファが届き、業者のひとがその場で組み立て、指定の場所に設置して帰った後。部屋でひとり、わたしが思ったのは「大きすぎるのでは……?」ということだった。
一代目と二代目のソファ
今回のソファは、我が家では三代目のソファだ。一代目は、結婚したばかりの頃に買ったカリモクの黒いKチェアだった。2シーターの、ソファというよりベンチみたいな、TVや映画の美術セットでもよく見るアレである。安定のカリモクブランドであるし、そのこじんまりと上品な佇まいは当時気に入っていた。しかし座面の縫合部分が破れてしまい、数年で買い換えることとなった。
カリモクのソファは、座り心地もよく気に入ってはいたけれども、サイズが小ぶりで座面も小さいため「ゴロンとできない」という決定的な不満があった。だから次のソファは、大きめのものにした。買い替えのタイミングで遊びにいった友人宅にあったIKEAのソファが、サイズ的にも値段的にもちょうどよかったので、真似をして購入した。その後それを、ついこの間まで、およそ10年程度使いつづけていたのだった。最後は、夫の定位置である側の座面がびりびりに破れ、中のわたが飛び出しているというひどい有様のまま数ヶ月間使っていたので、じゅうぶんにその生をまっとうしてくれたものと思う。
HAREMのTUMIKI SOFA(つみきソファ)
そして今回購入したのが、国産のローソファを専門に取り扱っているHAREMのTUMIKI SOFA(つみきソファ)だった。うちは冬には炬燵を出すし、とにかく座面の低いローソファというのが絶対の条件だったのだけれども(IKEAのソファも脚を外して置いていた)、このローソファというのが、案外無いのだった。「ローソファ」を銘打っていても、炬燵に入るには座面が高すぎるものが多く、その点HAREMは「ローソファ専門店」を名乗っているだけのことはあり、それこそ炬燵との相性を考えられた商品を含め、たくさんのラインナップがあった。
中目黒にあるショールームに行き、各種ソファに座ったり生地見本を見せてもらったりして、一度家に帰ってサイズのイメージなどを検証しつつ、もう一度ショールームに足を運び、そこで注文をした。TUMIKI SOFA(つみきソファ)を、L字型に置くことに決めたのだった。
ショールームで、うっかり思ってしまったのだ。
「L字にすれば、二人同時にゴロンとできるな」と。
我々夫婦はリビングで過ごす時間が長い。晩御飯だって、テレビを観ながらソファで食べる。食べたあとは、そのままゴロンとする。しかしIKEAのソファのときは、どちらかがゴロンとすると、どちらかは端に追いやられる恰好となっていた。
「L字にするというのはどうだろうか?」とわたしが言うと、
「それはいいね」と夫も言った。
いつの間にか「快適」が最優先事項のお年頃
ソファが届き、「大きすぎるのでは……?」と思ったわたしは、ソファの置き位置、テーブルの置き位置などを調整しては、ダイニング側から離れて眺めてみたりして「大きすぎる……? いや、これはこれで……?」などとひとしきり検討を重ねた挙句、とりあえず、ひとまず、大きなソファに寝転がってみた。そして思うのである。これは、たいへんに快適である、と。
突然だけれども、わたしは重ね着が嫌いだ。身体にフィットする服も好きではない。これはひとえに、「快適じゃない」というのが理由だ。重ね着をすると何だかごわごわするし、細身の服は窮屈に感じる。そういう服の着こなしをお洒落だと思うときはある。それでも自分では選ばない。結局のところ、わたしにとってはお洒落かどうかよりも、快適かどうかのほうが優先順位が上なのだと、これは最近気がついたことだ。きっと年齢のせいもあるのだろう。「お洒落は我慢」なんてことは、もう全然思わない。
そういう意味でいうと、このソファは最高だった。大きなソファを置くことで、すかんと抜けるような空間の洒落感、のようなものは損なわれた気はする。けれども、部屋の広さを考えれば、それほどアンバランスなわけではないように思う。そして何より、何よりもだ。「二人同時にゴロンとできる」その快適さは、思い焦がれたとおりの幸福感を与えてくれた。それがわたしは、いちばん嬉しい。
読書の秋、食欲の秋、もの思う秋
今年は花火もなければ海にも行けず、バーベキューもせず、「最高の夏」は来なかった。しかし「最高の秋」は、ここにある。思う存分、このソファで本を読んだり、雑なおやつで腹を満たしたりしよう。長い夜には映画を観たり、そのまま眠ってしまったりしよう。そう思うと、この新しい大きなソファが、とても尊いものに思えてきた。
と、ここまで読んでくださった勘のいい読者の方はお気づきかもしれない。わたしは今月のコラムで、この新しい大きなソファを愛せるよう必死に言葉を尽くしている。それは、冒頭に書いた「大きすぎるのでは……?」という不安を、どうにか掻き消したいと願ってのことである。
HAREMのソファは、国産にこだわり、受注生産で丁寧につくられた上質なソファだ。決して安くはないものを、一生物のつもりで購入したのだ。絶対に後悔はしたくない。そんなことはあってはならない。という気持ち。
けれども。ここまで書いて、観念しよう。このソファの大きな存在感によって、リノベーション当時から整えてきたインテリアのバランスは、少し崩れてしまった。自分がそう感じていることは、どんなに言葉で誤魔化そうとしても、やはり受け入れざるを得ない。快適さとは、また別の問題である。
暮らしながら、変容していく
要するに、表面積が大きいがゆえに、悪目立ちしている。というのが、今回のソファ導入に対する、インテリア的側面からのわたしの見解だった。実際のところ、部屋の動線をふさいだわけでもなく、物体として「大きすぎる」ということはないのだ。つまりわたしが気になっているのは、ぱっと見の印象の問題ということになる。
ならば、インパクトをソファだけに持っていかれないように、大きめの観葉植物などを置いたらいいのではないか。というのが、今のところのわたしの解決案だ。それから、ソファにクッションなどをいくつか置けば、のっぺりした印象にアクセントを与えられるかもしれない。
んなことを考えていたら、何だかウキウキしてきた。リノベーションをして、この部屋で暮らすようになってそろそろ3年が経つ。この大きくて快適なソファの導入を機に、また少しずつ部屋を変えていくことを想像すると、それはとても楽しいことのように思えてきた。わたしたちの暮らしはいつまで経っても不完全で、少し足りない。そういうのがいいのかもしれない。
TUMIKI SOFAの快適さは、本物。だからそれに合わせて、部屋のバランスも新たに整えていこうと思う。枯らしてしまうかも、という不安から置けずにいた観葉植物に挑戦してみたり、覚えたミシンでクッションを縫ったりすればいい。そういうことを楽しみながら、しばらくは生活していくことにする。
もともと母の愛読書だった「エースをねらえ!」は。すごく古いけど、今読んでもとてもいい漫画。おすすめです。
それでは、また神無月に。
Photographer : 塚田史香(Twitter @tsukadacolor)
Mansion Renovation Document 正直なすみか
Q本家が中古マンションを買ってリノベーションに踏み切ったキッカケから、物件購入、プラン打ち合わせ、竣工までを綴った連載コラム『正直なすみか』のアーカイブはこちら。
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