平屋暮らしのバイブル。住まいのオアシスはここにあった。【FLAT HOUSE LIFE 1+2】
賃貸の部屋を探すときって鉄板の条件ってありますよね。間取りはもちろん、築年数や駅までの距離、部屋の向きなどなど、あげればキリがありません。しかしその無数の選択肢がある中で『平屋』で検索したことがある人は少ないのではないでしょうか? 実はここ数年で、かつて米兵に向けて建てられた「米軍ハウス」や庶民の憧れだった「文化住宅」などの『平屋』がちょっとしたブームになっているようです。今回はその魅力をぎゅっと詰め込んだ1冊『FLAT HOUSE LIFE 1+2』をご紹介します。
人生を変える家に出会う。
『FLAT HOUSE』という耳なじみのない言葉。簡単に説明すると『平屋』なのですが、その中でも特に注目を集めているのが、昭和の中古住宅を「住むアンティーク」「ビンテージ住宅」として捉える、新しい考え方です。
そのムーブメントの発端になったのが2009年に発刊された『FLAT HOUSE LIFE』でした。著者は、イラストレーター兼文筆家のアラタ・クールハンドさん。何を隠そう、ご自身も平屋との出会いが人生を変えたひとりです。いくつものFLAT HOUSEを見て回り、現在は東京都と九州の2拠点のFLAT HOUSEで活動する生粋の『FLAT HOUSEフリーク』でもあります。
ではさっそくFLAT HOUSEの魅力を本書の内容を交えてご紹介していきます。
まずは本書の冒頭に書かれているFLAT HOUSEの「ここがイイ!」というポイントからご紹介。
“家賃が安い”/“初期費用が少なくて済むケースが多い” /“引越し代が安い” /“気兼ねが要らない” /“ペット飼いが可能” /“画一的でないインテリア” /“庭がある” /“駐車場代が無料” /“アプローチがある” /“近所付き合いが密になる”
もし、これらの条件でFLAT HOUSE以外の物件を探すとなると、そうとう苦労することでしょう。しかし、「築50年」が当たり前の建物なので、「築浅がいい」「キレイな部屋じゃないとイヤ」という要望はなかなか叶えられません。そこで暮らしていくには自分たちの手でメンテナンスしていく必要があります。でも、それだけの理由で選択肢から外してしまうなんて、もったいない。なぜなら、どんな高級マンションや新築住宅にもない、ならではの魅力が平屋にはたっぷりと詰まっているからです。
次は、その暮らしぶりや実際のFLAT HOUSEをご紹介していきます。
人が住み、家がよみがえる。古さを魅力に変えるのは自分。
まず目に見えるところでいうと、いたるところに残された当時のパーツや建具、内装の素材です。「あえて」ではなく「当たり前に」そこにつけられたモノたちは、時代の流れでリアルビンテージへと変化してきました。タイルや壁紙、照明のスイッチなんて、ひと目みただけでそのポップさに惹きつけられます。
そして、平屋暮らしの醍醐味ともいえるのが、集合住宅では得られない暮らしのゆとりと人との関わり。アラタ・クールハンドさんがまだマンションに住んでいた時、友人の平屋を訪れた際に見た光景がとにかく印象深かったようです。
“築年数は40年近く経っていた。住人たちは夜な夜な共有庭に集まって焚き火を囲んでの大小ご宴会。「金なんかなくても人生幸せ」といわんばかりの、まるで遊ぶように暮らす彼らの姿はとにかく衝撃的で頭に強く残っていた”
また平屋そのものについても以下のように語っています。
“その暮らしぶりもさることながら、何よりその家そのものに魅せられた。真鍮製のドアノブや木製の窓、ペンキが塗り重ねられた壁、見たこともないような古いキッチンユニット……。(中略)時代錯誤のタイル製のバスタブが横たわるバスルームはトイレが一緒になっていてまるで洋画のセットのようだった”
現代の感覚に照らし合わせるとデメリットに思えてしまう「築40年」という時間も、他ではけっして手に入れることのできないモノや体験に囲まれた生活に必要なことなのかもしれません。
人気が出てきているFLAT HOUSEではありますが、老朽化や再開発のために取り壊しが進み、急激に少なくなってきていることも事実です。本書ではその暮らしを伝えると同時に、「本当に幸せな生活」を考えさせられる部分が随所に垣間みえています。
“ほとんどは集落となって建っていた。ひとつの町としてあったエリアさえある。それが半世紀経った今では、大部分が取り壊されて和式二階家にとって変わられ、それらの隙間に僅かに残存する程度となってしまった”
時代のニーズに合わせて暮らしぶりも変わっていくのは自然の流れかもしれません。でも、それによって失われるモノもありますよね。隣の家まで1m、毎日のように顔を合わせていても挨拶すら交わさないことも珍しくありません。隣人との関係が希薄な時代だからこそ、FLAT HOUSEに住む住人たちが自然と形成するコミュニティが、いっそう魅力的に感じるのでないでしょうか。
まだまだ語り尽くせないFLAT HOUSEの魅力ですが、つづきは本書で。そこで紹介されている物件はすべてノンフィクションの世界です。
リノベーションにもルームシェアにも共通する、「古いけど新しい、新しいけど懐かしい」それでいて自分らしい暮らしを実現したいのなら、FLAT HOUSEで探してみてはいかがでしょうか。