町ぐるみでつくる「箱物」の魅力 〜大川のヒキダシ展を訪ねて

3月22日〜26日まで、代官山T-SITEで『大川のヒキダシ展』が開かれました。「ヒキダシ」をテーマに、大川の家具の魅力を楽しく、わかりやすく伝えた企画展示。内覧会を取材してきましたので、展示の模様とそこから分かった大川家具の魅力を3回にわたってレポートします。

中のモノをしっかり守ってくれる“気密性”

伝統技術が受け継がれ、現在でも町ぐるみで家具をつくっている大川。
今回、3つのヒキダシ作品は、高度な技術や職人の意気込みを見せてくれました。

ここで視点を換え、いち生活者として家具を見るならば、引き出しそのものの使い勝手も気になります。
そんな観点から注目したい、大川の家具の特徴が「気密性」です。

引き出しの役割は、中にしまわれたものを保管することです。もちろん、ただ置いておくだけでなく、できれば、取り出すときには、しまわれたときと同じ状態であってほしいですよね。
衣替えの季節など、しまっていた服に虫くいやシミが見つかってショックを受けた経験、ありませんか?

そこで、「気密性」です。引き出しの引き出される部分と受ける部分に隙間があると、そこから湿気や虫が入り込んでしまいます。理想はピッタリとはまって隙間のない状態。つまり、気密性の高い状態です。

今回、フラッグシップ作品とともに注目された『50人のヒキダシ』。50人の有名人の私物を収納した、この作品も気密性の高い引き出しでした。

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    『50人のヒキダシ』。端から端までつづく、長い木目模様が壮観。

ちなみに、気密性が高いと、どうなるのでしょうか。こちらの動画を見てみてください。

これは、空気で別の引き出しが押し出されるという特徴をあえて強調してつくられた作品ですが、普通の引き出しとは違うことがよく分かると思います。

ちなみに、ピッタリつくりすぎても、重たくて引き出しが開けられなくなってしまいます。そのため、スムーズに引き出せて気密性も保つには、微妙な調整が必要になるそう。

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    たくさん引き出しても、かなりの安定感。

引き出しがレールで転がされるのではなく、木の上を木がすべっていく感じはとても気持ち良いのですが、なかなか言葉に表すのは難しい。ぜひ実際に体験してほしい感覚です。

いつの日か、良き相棒に出合うために

大川の家具に限らず、きちんとつくられた家具は一生ものです。
とはいっても、そうそう家具は買えるものではありませんよね。

好みだって変わるかもしれない。適当な家具で用は足せるし、先行き不透明な時代、ほかにいくらでも緊急度・重要性の高い出費はあるでしょう。

長く使える家具よりも、低予算で好きなものが買えて、引っ越して合わなくなったり、壊れたりしたら気軽に捨てられる方が時代には合っているのかもしれません。

でも、すぐに買うことができなくても、長く使える良い家具にふれる意味はあります。どんなものが良いものなのか、自分は何が好きなのか。やっぱり、数を見ないと分からないから。

職人がつくったから、トレンドを押さえているから、良い材料を使っているから。それだけでは良い家具かどうかは分かりません。

家具は家にいればずっと使うもの。自分の生活を支えるに足る相棒であるかどうかは、他人のモノサシでは測りきれないと思うのです。

そして、いつか、自分にとっての一生もに出合えたら……

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    クルクルひねれて、引き出せる不思議な家具を発見!

『大川のヒキダシ』展では、さまざまな作品やこの企画に参加した方々の声から、大川の家具の特徴や魅力が分かりました。
釘やボルトを使わずに職人が仕上げると、どんな見た目になるのか、“気密性”って何なのか、引き出しや扉の滑り加減などなど。

そこで、大川の家具のおもしろさをできる限り、お伝えできればと、3回にわたってレポートしてきました。
ですが、まだまだお伝えしきれていない魅力もたくさんあります。
もっともっと大川の家具のことが知りたいと思ったら、ぜひ大川の町を訪れてみてください!
関東からはちょっと遠いですが、きっと良い家具、良い家具屋さんに出合えるはずです。

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PHOTO by Yusuke Nishimura / アンティルより支給

大川のヒキダシ展

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会期:2017年3月22日(水)〜26日(日)
会場:代官山T-SITE  GARDEN GALLERY
主催:大川市、一般社団法人大川インテリア振興センター
参加クリエイター:小山薫堂とオレンジ・アンド・パートナーズ、鈴木修司(BEAMS JAPANバイヤー)、イガリシノブ(メイクアップアーティスト)
フラッグシップ作品担当デザイナー:相馬唯
同時開催イベント:クリエイタートークショー&メイクショー、大川職人とつくるミニヒキダシワークショップ

【公式サイト】http://www.okawa-hikidashi.com/

【公式Facebook】https://www.facebook.com/okawanohikidashi/

WRITER'S VOICE

木工を始めるのに最適な町?!

杉や桐など、種類の違う木が多く見られたので、「大川の家具は樹種に決まりはあるのですか?」とお聞きしたところ、特に、この木でなくては大川の家具とは呼べないということはないそうです。用途に応じて、堅い木や柔らかい木、国産材料から輸入木材まで、使いわけているのだとか。
森林資源が豊富で木材がとれるから家具の町になったという地域もありますが、大川は木を加工する技術があったから家具の町になったのだということが、そんなところからも分かりました。
大川インテリア振興センターの方が「木材の仕入れ先から、加工機械や部品まで、あらゆる関連業種があるので、木工を始めるのには最適な場所ですよ」とおっしゃっていたのが印象的でした。

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