vol.05 霜月、冬支度。こたつと犬と、ホットワイン。
わたしはこの部屋で日々、わたしという役を生きている。登場人物はおもに、夫と犬と、わたし。演出、わたし。観客も、おもにわたし。ここは、芝居の稽古がない日のほとんどを家の中で過ごす、わたしによる、わたしのための舞台だ。このコラムは、そんなわたしの生活のありようを、月々の季節の風習とともに紹介するコラムです。理想を描いたリノベーションコラム『正直なすみか』その後、のおはなし。
11月に入り、いよいよ気温が下がりはじめてきた。秋がいちばんすきだけれども、どんどん冬に向かっていくこの季節もすきだ。世界がどんどん「年末」に向けて加速して、それは良くも悪くもお祭りのようで、街がゆるやかに正気を失っていく感じがする。その混沌とした祝祭感が、なんとなく心を解放的にしてくれることを、わたしはけっこう好もしく思っている。
この家で暮らすようになってから、いちばん変わったのは朝の過ごし方だと思う。起きてまず、窓を開けるようになった。以前暮らしていた家は、大通りに面していて排気ガスが気になったり、半分地下のような部屋で窓の向こうが壁だったりで、「窓を開ける」という習慣をずいぶん長いこと失っていたのだった。今は、朝に窓を開けて風をとおし、その日の気候を(iPhoneのお天気アプリではなく)体で確認するようになった。これは正しく健やかな行いに思えるので、この瞬間のわたしの自己肯定感はすこぶる高い。
そしてある朝、感じたのだった。
冬がはじまるよ、ホラまた僕の側で。
CASE STUDY KOTATSU TABLE
こたつを買ったのは、今年の年明け早々だった。「もう冬が終わるのでは?」と夫に言われながら「でもまた冬は来るから」とゆずらず、購入に至った。そして、また冬が来た。
こたつを選ぶにあたり、いちばん大切だったのは、ふたり並んでくつろげる大きさがあること。夫とわたしは、リビングで時間を過ごすときはテレビと向き合う形でふたり並んで座る。このときに、互いに干渉せず、悠々とくつろげるだけの幅が必要だ、という意見で一致した。せっかく広いリビングにリノベーションしたのに、やれ足があたるだの、もっと詰めろだのと、言いたくはなかった。わたしたちは久しぶりにメジャーを取り出し、実際に並んで座ってみては、最低でも何センチは欲しいなどと話し合ったりした。
そうして最終的に購入したのが「CASE STUDY KOTATSU TABLE」だった。年末年始の休みをつかって、インターネットから実店舗からたくさんの店を見て回ったのだけれども、そもそも望むような大きさのこたつはあまり多くはなかった。その少ない選択肢のなかで、見た目的にも部屋に合いそうだったのが、journal standard Furnitureで取り扱われている「CASE STUDY KOTATSU TABLE」だ。名前からしてもう、お洒落でっしゃろ感。こたつといういかにも野暮な代物を、スタイリッシュに仕上げましたよという意思がありありと伝わってくる、正しいネーミング。わたしたちは衒うことなく、その意思をまっすぐ受け止めることにしたのだった。journal standard Furnitureさん、お洒落なこたつを作ってくださり本当にありがとうございます。
こたつと犬の毛問題
買う前から覚悟はしていた。これまでだって布製品を買うたびに幾度となく泣かされてきたのだ、曇天の毛に。フレンチブルドッグは毛が伸びないのでトリミングの必要はないのだけれども、そのかわり、抜ける。めちゃくちゃ抜ける。ぴんと伸びた短く硬い毛が、そこらじゅうに散らばる。そして刺さる。いちど刺さった毛は、繊維の隙間に引っかかり、なかなか取れない。家は一度、それでyogibo(https://yogibo.jp)をダメにしている。あの柔らかい布と、曇天の毛の相性は最悪だった。
だから分かっていたはずなのに、「こたつの下にはカーペットを敷くもの」という固定観念にしばられ、いったんは買ってしまった。丸洗いできますと謳われた、温かなカーペットを。そして捨てた。いかにコロコロをかけようが丸洗いしようが取れない大量の毛が絡まったカーペットを、けっこうすぐ捨てた。そして気がついたのだった。「カーペットいらなくない?」「うん、このほうが気持ちいいね」。かくして家は、コタツオンザフローリングスタイルを採用したのである。
こたつ布団のカバーにはこだわった。カーペットはなくせても、こたつ布団はなくせない。こたつ布団がなくては、こたつはこたつでなくなってしまう。そしてカバーも、CASE STUDY KOTATSUシリーズのものにした。他も検討したけれども、このカバーがいちばん繊維がぎゅっとしていて、つよくて隙間がなく、曇天の毛との相性が良さそうだった。毛はもちろん落ちるが、刺さらない。刺さらなければコロコロで取れる。コロコロをかけようではないか。あのyogiboの地獄に比べれば、こまめにコロコロするくらい、何てことはないのだ。
こたつサプライズ
かくして家にこたつが導入された昨シーズンであった。そしてまた、冬がきたのである。わたしはうきうきと、こたつ布団を出してきた。
大きなこたつを買ったので、必然、こたつ布団も大きい。サイズとしては200cm×250cmもあり、正直なところ、手に余る。身長154cmのわたしでは、どんなに腕を広げて持ち上げても、布団の全容は見えてこない。ふかふかでボリューム満点のこたつ布団をカバーの中に入れるのは、ひと苦労だった。
なにも一人でやることはないのだ。夫がいるときに、一緒にやれば格段に早いに決まっている。それでもわたしは、夫のいぬ間に、一人でこたつを完成させたかった。これは妻としての性だろうか。仕事から帰った夫に「あ、こたつ出とるじゃん」と言わせたい、という、驚かせたいような、褒められたいような、そういう欲求が、時々わたしの非効率的な頑張りを生む。こたつ布団を出し終えるころには、まあまあ息が切れていた。
冬はじめのホットワイン
無事にこたつも出したことだし、「冬をはじめるぞ」という気持ちをもって、ホットワインを作った。ちょうど頂き物のワインがあって、思い立ったので果物やスパイスを買ってきたのだった。普段からお酒をそれほど飲まないし、ワインの味などもよく分からない。けれどもホットワインはすきだ。甘くて美味しいし、存在自体があたたかい感じがする。
赤ワインに、オレンジとレモン、生姜、それからシナモンとカルダモンを入れた。砂糖とはちみつも。分量は、勘で。わたしはシナモンがあまり好きではないけれども、ホットワインにはやっぱり少し、その香りがあったほうがいいような気がして、入れた。スパイスが効いているほうが、体にも良さそうだ。インターネットにもそう書いてあった。
この家はあんがい寒くない
ここに住みはじめた頃、あるいはプランニングしている時点でも、この家は寒そうだと思っていた。天井や、壁も半分むき出しであるし、床だって硬いモールテックスで、いかにも寒そうな家になることを、覚悟していた。
それがどうやら、この家はあんがい寒くない。すでに二度の冬を越しているけれども、あのいわゆる鉄筋コンクリートづくりの部屋のような、底冷えする感じはまったくないし、建物が古いわりには隙間風などもない。こたつとストーブがあれば、冬支度は万事オーケーといった心持ちだ。
家の近くの商店街では、11月に入ったとたんにクリスマス・ソングが流れていた。年々、イベントの先取りが過ぎる気がしてちょっとばかり呆れつつ、まあそれもよいだろうという気持ちもある。寒い季節は、なるべく心を浮つかせていたい。イルミネーションまみれの、騒々しい街がわたしは好きだ。
家に帰れば、こたつに入って、温めたワインを飲めばいい。いつの間にかこたつで眠ってしまう夜もあるかもしれない。それもよいだろう。それでも朝になれば、窓を開けて風をとおし、こたつカバーにコロコロをかける。そういう冬を過ごしたいと思う。ただし、一つだけ注意しなければならない。作ったホットワインはその場ですべて飲み干したほうがいい。漬け置きをすると酒税法に引っかかってしまう。インターネットにそう書いてあった。お気をつけあそばせ。
それではまた、師走に。
Photographer : つかだふ(Twitter @tsukadacolor)
中古を買ってリノベーション by suumo
中古を買ってリノベーション by suumo (2019Spring&Summer)
「リノベーションと暮らしのカタチ」の事例として、表紙/特集ページにてQ本家が紹介されています。