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2年前に骨折して入院したときに、とても若々しく元気な90歳女性と出会った。
入院中にもかかわらず、彼女のまわりには花が咲いたようにおだやかでしゃんとした明るい空気が満ちていた。そばにいた彼女より少し年下ぐらいの女性たちがどうしたらそんなに元気でいられるの? と秘訣を聞いていた。
毎日「ありがとうございました」という気持ちで、くよくよはひきずらずに寝るのが秘訣らしい。
「嫌なことがあった日は?」と聞かれると、「まぁ、しゃーないか〜!」と思いながら寝るのだと言っていた。
言葉自体はありふれてるかもしれないけれど、少し話しただけでも明るい気持ちになれるような素敵な方だったのですごく真似したくなった。
このときの言葉を今でもよく思い出している。
私は過ぎたことをくよくよ考えて「あのときに戻ってやり直したい……」などといつまでも思ってしまいがちな性格なので、そういう気持ちになったらいつも脳内に彼女を呼び出して、あのときのほがらかな口調で「まぁ、しゃーないか〜!」と言ってもらう。
自分でも口に出すと少し気持ちが吹っ切れるような気がする。
お名前も連絡先も聞いていないので、もうなかなか会えないとは思うのだけれど、彼女の言葉にはいつでも会える。心の中のいつでも取り出せる引き出しに入れているから。
もらった言葉は、一度言葉を発した人の元を離れても、受け取った人のところでずっと生きていく。
おなかいっぱいにもならないし、難しい病気を治すような力があるわけでもない。言葉って無力だなと思ったこともあるけれど、心の中にしまっておいて何度でも何度でも取り出せる。言葉って、魔法みたいだ。
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