少しずつ場所を変えながら行われた取材も佳境へと入ります。最後はANTRYのとなりにショールームを構え、マンションや戸建住宅から、飲食店やアパレル、ヘアサロンなどの店舗までの設計・施工を手がけるFolk。ここでもやはり重要なキーワードは「ビンテージ」です。

「空間全体を触ることができないと、家具もインテリアも映えません。そこでつくったのが、建築部隊であるFolkです。一般的な工務店だと、既成のメーカー品をショールームに見に行って選ぶというカタチになりますが、Folkなら自社で扱っているビンテージアイテムを空間の中に取り込むことができます。

もちろん家のすみからすみまでビンテージ、というわけにはいきませんが、アクセントとなる場所には、必ずビンテージを用いていますよ」

ANTRY、ANTRY PARTS & SUPPLY、そして、Folk。３つの点を面にして駆動させていくことで、お客様にワンストップのサービスを提供しています。

「原点であるANTRYは、住まいを心地よくしたり、家具や小物ひとつで心を軽くなったり、人に優しくなったりしてもらうための場所。また、古いものに手を加えて使うという取り組みを通じて、ものを大切にする心や、人との関わり方まで提案できるといいですね。

ANTRY PARTS & SUPPLYは自分で家をつくりたいと思った時に、細かいこだわりや質感を実現するためのお店。そしてその２つの店舗が大切にしてきた世界観を、もっと大きな規模で具体化するための組織がFolkです」

「ビンテージ」というキーワードの中で２つの店舗と建築部隊までを作り上げた藤崎さん。実は心の奥底に潜む、もうひとつの強いイデオロギーがありました。

「私たちがやっているのは、すべて“面倒くさい”こと。わざわざ古いものを選んで、それを修理して使うこともそうです。家を建てる場合だって、同じものはつくりたくありません。もちろんお客様は素人の方だから、こちらからコーディネート提案もしてあげたい。それを一つひとつやっているから、効率は非常に悪いんですよね。

でもそうやって、面倒くさいことをずっと丁寧にやり続けてきたからこそ、多くの方々に支え続けてもらったのかもしれません」

信念をもって、面倒くさいことに従事しつづけた20年弱あまりの歳月。お客さんの中には３世代でANTYRYを贔屓にしている家族もいるそうです。また、スタッフの中にも、もともとANTRYの熱狂的なファンで、小さな頃からヘビーユーザーとして通っていた人が何人かいるとのことで、いかに地元で愛される存在なのかがよくわかります。

「もう長くやっているので、紆余曲折がありましたが、すべての経験が今につながっている感じがします。いま思うと、ANTRYを始めた頃は、ビンテージ商品にほんの小さなキズがあるだけで売れませんでした。それがようやく最近は、木のアイテムに『節がある方がいい』と言っていただけたり、『傷が残っている方が、味があっていい』というお客様がいらっしゃったりするようになりましたね。 家をつくりたい人、お店をつくりたい人に向けて、これからもさらに私たちの世界観を広げていきたいですね」

幼少時代、レザー製品に古ぼけた風合いを出すために火であぶったものの、焦げただけだったと笑い話をしてくれた藤崎さん。その頃から変わらず持ち続けるビンテージへの愛は、地域に、そして大阪に、さらには全国のファンへと着実に広がりつつあるようです。