横溝さんが旅暮らしの中で得たもの、北海道にて親方から学んだもの、さらに独立するまでに感じていたこと。それらすべてを詰め込むことで出来あがったハシエンダ。本業である住宅・店舗の設計・施工事業においても、よき“営業マン”として活躍しているとのこと。

「この空間自体が、『この建物をつくれる会社に、自分の家もお願いしたい』と思ってもらうためのプレゼンテーションになっています。しかも、普通のモデルハウスだと、土日以外はあまり人がくることがなく、ただ置いてあるだけの状態。ここは体感できるモデルハウスでありながら、飲食店でもあるので、みんながハッピーになれる可能性がありますね」

ものづくりに従事する様々なクリエイターが集い、情報が収束し、また発信される場所。そして自分自身も、新鮮な食材を使った美味しい食事がとれる場所。しかも、愛してやまない昭和の文化住宅風。横溝さん自身の理念がそのまま具現化されたハードを手にした今。ここを使って、どういった活動を思い描いているのでしょうか。

「飲食店としての機能だけでなく、最近は講師を招いたワークショップを定期的にやっています。直近だと、お花を使ったガーランドをつくったり、白味噌をつくったり。和菓子でキャラクターをつくるものもありました。『DIY系のイベントもやりたい』という声も、たくさん上がっていますね」

取材でうかがった時には、ほぼ満員だった店内。そのほとんどが若い女性であることにまず驚き、また、お店で働いているスタッフみんなが、活き活きと、笑顔でそれぞれの仕事を進めていることも印象的でした。お料理が美味しいのはもちろん、建物もオシャレで居心地がよく、メニューもインスタジェニック。地域の流行を作り出す話題のお店となっていることが容易に想像できます。

ただ、その仕掛け人である横溝さん自身は、少しの苦笑いを残しました。

「本当は、僕自身はこういう気取ったお店が少し苦手で……。少し落ち着かないですよね。だからもし次にやるなら、小汚いおでん屋さん、みたいなのがいいですね。『ガラガラ〜』と扉をあけると、おばちゃんが一人いて、昭和歌謡がかかっているような（笑）」

北海道から大阪に帰ってきた時には、「いつかはまた北海道に戻りたい」と考えていたと話す横溝さん。今もその思いはあるのでしょうか。

「最近はもう北海道に戻ることを考えなくなりました。どこにいたって自分がその場を楽しめる状態になったというか。結局はどこを拠点にしていても一緒だと思いますね。

だから今は、このお店に多くのクリエイターの方を招き、人と人との接点をつくるような活動に力を入れていきたいです」

横溝さんが、19歳で旅に出たあの日から、すでに20年弱。自身の事務所の横にある大きなお店は、昔ながらの大工の棟梁である富良野の親方が信じてきたものと、横溝さんがずっと抱えてきたすこし不器用ながら、古き良き日本の文化を愛する心が混ざったものになっていました。

しかし、出来あがったお店は、どこから見ても現代的かつオシャレで、それ故に、若い女性を中心に大人気。いっけん矛盾しているようにも思える状況ではありますが、そこに関わるすべての人がハッピーに見えたのは、やはり横溝さんの柔らかい人柄と、ずっと曲げずにいる信念が影響しているように思えます。

現在、お店は『Lugo』に屋号を変えて、変わらずピザをはじめとする絶品のお料理を提供しているとのこと。ワークショップなどのイベントも引き続き計画中のようなので、お近くの方、または大阪を訪れた際は、ぜひ。