もう5年以上に渡って、自宅の洗面所のコップを小さなからだで支えてきた『KOBITO』。2019年に発売された『Remococo』は、キッチンと、仕事用デスクの上の棚に2つ。お風呂を洗う時は、過去にリノスタでも紹介したtidyの『Handy Sponge』と『PlaTawa for Bath』で。会社のデスクには、日々、大量に送られてくる封書を開けてくれる『Birdie Paper Knife』……。
雨森の愛用品として、自宅とオフィスに、かずかずの商品が置かれている『+d』。そして、その商品を世に送り出しているのが、『h concept(アッシュコンセプト)』です。みなさんも、蔵前やKITTEにある直営店、『KONCENT』に行ったこと、あるんじゃないですか?
そして今回、我々からの取材の依頼を快諾していただき、登場していただいたのが、広報を担当する……と思いきや、なんと名児耶社長! 日本のデザイン界における重鎮的存在です。よくぞ、この狭苦しいオフィスまで……。本当にありがたい! 取材が始まると、とってもお茶目で、サービス精神旺盛、お話好きの名児耶社長。その経歴となる、ムサ美から高島屋の宣伝部へ、そしてご実家の仕事をデザインのチカラで拡大させ……みたいな話も、たっぷりと語ってもらったのですが、それは他のサイトでも読めるので、そっちを参照してもらうとして(爆)、現在のアッシュコンセプトの本質的な部分に迫る話だけを抽出して、お届けしたいと思います。
実際のインタビューでは、到底、記事には書けないような「〇〇で〇〇な話」とか、「△△が□□した話」などを含めて、すべてのデザインに携わる人に向けた、ありがたいお言葉をたくさん、いただきました。いやほんと、名言が出るわ出るわで、大盛り上がり。あぁもう、ほんと読者の方々にも、編集なしでぜんぶ聞かせてあげたかった! だってお話、面白すぎるんだから!!!
(取材日:2019.06.11)
Theme 2「心を動かし、刺さるもの。“際”のデザインを求めて。」
【2-1】大切なのは、“いらない”こと??
雨森:デザイナーとプロダクトをつくる際、また外部企業のデザインコンサルをする際に、意識することはありますか?
名:まずね、この業界にいる人は、「大量生産が成功だ」と思っている人がとても多いんです。でも、今は多様性の時代だから、消費者ごとに考え方は違うし、ほしいものも人それぞれ異なります。だからこそ、本当にほしいと思っている人に対して、きちんと届けるためには、大量生産ではダメなんです。大事なのはね、“いらないモノづくり”なんですよ。
雨森:「いらない」……? 必要のないものをつくるのが大事ということですか?
名:そう。「いらないけど、あると嬉しいもの」。たとえば、雨森さんは、『KOBITO』を使ってくれているんだって?
雨森:はい! もう5年くらいかな……。ホワイトなんですけど、ちょっと黄ばむくらいに……。
名:それはね、単純に使いすぎ(笑)。でもありがとう。あれ、どうですか? 水を口に運ぶだけなら、コビトのカタチでなくてもいいですよね? でも、口をゆすぐたびに「ありがとうな!」みたいな気持ちになる。その心の動きまでをデザインしているんです。
雨森:確かに、機能性とか実用性、そして必要性みたいなところとは違う部分に惹かれて、選択するプロダクトですよね。
名:そこなんです。心を動かせるもの。絶対に必要ではないけれど、心に刺さるもの。そうなれば、価格競争から抜け出すことができます。この商品、知っていますか? パスキー・デザインの『Animal Rubber Band』です。
雨森:はい。動物のカタチをしたカラフルな輪ゴム。大ヒット商品で、アッシュコンセプトの代表作の一つですよね。
名:この商品にもきちんとした思いが込められています。普通の輪ゴムが道に落ちていたら、拾いますか? 普通の人は知らんぷりだよね。あれはもう使い捨ての商品だから。でもこれが落ちていたら、違うでしょ? 昔、海外の展示会で、わざと床にばらまいことがあるんです。そしたら、人が集まってきて(笑)
雨森:これが落ちていたら、普通の人は、絶対に拾いますよね。
名:やっぱり、使い捨ての文化ってよくないよね。でも「モノを大事にしよう!」なんて直接的に伝えるのも、ちょっと野暮ったい。でも、このゴムなら、みんなの意識は少し変わります。手にしただけで、「ものを大事にしよう」と思うようになるデザイン。だからこの商品は素晴らしいし、僕も心から大好きなんです。
雨森:見た目がいいのはもちろん、持っていることで少し気分がよくなるし、さらに物語を含んでいる。それらの価値がすべて備わっているから、いいデザインなんですね。
【2-2】モノづくり=恋人づくり。
雨森:どの商品においても、絶妙なバランス感があるんですよね。僕ももういい歳なので、奇をてらったようなものはいらない。でもシンプルなものばかりだと退屈になってしまう。その微妙な感覚に寄り添ってくれるのがアッシュコンセプトのアイテムなんです。派手すぎないけど、モノトーンばかりでもない。もちろん気の利いた遊び心もある。
名:僕たちは、他のメーカーと比べると、“はじける”ことができると思っています。ただ、デザインの価値を下げるようなはじけ方はしたくない。“際(きわ)”の部分ですよね。デザインとアートの際にあるのが、一番すぐれたものだから。というのも、デザイナーの考え方っていうのは、時にアーティスティックなものになりがち。それを、きちんと評価されるプロダクトへと昇華させる必要があるんです。使う人の気持ちを上手に落とし込む必要がありますよね。
雨森:では、アートの方向に寄り過ぎた作品を、商業ベースに乗せるために、すこし引き戻す、みたいなこともあるんですか?
名:うん。それもあるけど、逆に僕が作品に恋をしちゃったら、「このまま、いっちゃえー!」ってなるよ(笑)。それで出来上がった自信作がカオマルですね。
雨森:これはたしかに、究極ですよね。もはや、機能的な価値はゼロ。「何でもない」っていう……。
名:でも大ヒットしたからね。1番うれしかったのは、ニューヨークにあるとあるデザイン事務所に行ったら、入り口にカオマルが並んでいたんですよ。すっごいおしゃれな事務所に(笑)。
名:ただね、デザイナーがつくったっていうだけで、売れると思っている人もいて、それはそんなこともないんです。やはり、それと使う人の気持ちとをくっつける接着剤みたいなものが必要で、それが我々の役割でもあるんですよね。デザイナーとの二人三脚でやっている感じかな。
雨森:デザイナーの作家性やすこし奇抜な感性と、ユーザーのニーズやマーケティング的な発想がくっついた時に、ヒット商品になるんですね。そして、さらにできれば遊び心も残したいと。
名:それはね、やっぱりデザインのレベルが高まるにつれて「シンプル イズ ベスト」だけが最適解ではなくなっているから。そこに“エモーション”とか“心を動かすなにか”が必要になっている。
雨森:確かに、僕も基本的には普遍性を帯びたシンプルなものが好きなんですが、そこに少しの作家性があると、より面白いですよね。
名:そう。そこの微妙な“際”なんです。それくらいデザイン全体のレベルが上がっているからね。
雨森:あと、いつも感じるのは、素材のよさというか。ちょうどいい柔らかさとか、発色、手触り……と、素材が持っているポテンシャルが、商品の価値の根幹を成すアイテムが多いように思えます。でも名児耶さん自体は、別にマテリアルの専門家でもなければ、化学を専攻していた訳ではないですよね?
名:うん。だからね、僕はいつもみんなに「恋人をつくるように、モノづくりをしよう!」って言っているんです。あなたは結婚はしていますか?
雨森:はい。しています。
名:奥さんをデートに誘う時、いっぱい調べたでしょ?
雨森:そうですね。プレゼントをする時も、ご飯に誘うときも、彼女が何が好きかを調べて……あっ、恋人ってそういうことか!
名:うん。雨森さんが奥さんのことを好きなように、僕はモノづくりがとても好きなんです。となると、いっぱい調べますよね。専門ではないけれど、調べればなんとでもなるから。たくさんの工場にも行きましたよ。それは確かに大変だったけど、大変なことって、言葉を変えると、面白いってこと。楽なことは、誰だってやっているからね。
(つづく)
Animal Rubber Band Zoo 24Pギフトボックス
使っても、使っても、元のかたちにきちんと戻る、動物型の不思議でかわいいシリコーン製の輪ゴムです。
お菓子のラッピングなど、ちょっとしたギフトに使っても、きっとよろこばれることでしょう。
もちろん子供のお弁当を包むときや、オフィスのデスクの中に飼っても楽しいですよ。
¥540(税込)
h concept(アッシュコンセプト)
モノを創る人と造る人を、そしてモノを使う人を、大切にしていきたい。
モノづくりを通して世の中を元気にする会社です。
アッシュコンセプト公式サイト:http://h-concept.jp/