vol.07 愛用品その3【ダイアリー(デルフォニックス)】1/3

渋谷、恵比寿、吉祥寺、丸の内、横浜、二子玉川……。

大の文房具好きである編集長・雨森は、デルフォニックスの直営店である「DELFONICS」、「Smith」がある街に行くたびに、ほしいものがあろうとなかろうと絶対に足を運び、どれだけ忙しい時でも、30分ちかくの時間をそこで過ごすのがマイルールとなっています。そもそも最初の出会いは、当時まだ地元の大阪にいた雨森少年(いや、すでにガッツリ青年)が、東京出張に来た時に買った1冊の手帳。そこからリフィルを交換し続けて、10年以上の月が流れています。

今では、ノートにペン、その他の雑貨、友人へのプレゼントなど、気づけば身の回りはSmithで買ったものばかり。それらの商品を企画・販売しているスタッフの方々との対談ということで、テンションが上がりきった挙げ句、今回なんと、自身の理想の手帳の形をプレゼンをするという大胆な行動に出てしまいます!

そんな“暴挙”に対し、終始こころよく、笑顔でお付き合いいただいたのは、広報の和田千波さん、商品企画やMDなど幅広く携わる黒本和美さん、デザイナーの宮下瞳子さんの3名。女性の訪問に、編集部がいつになく華やかな空気に包まれました!

(取材日:2019.06.24)

Theme 1「開発、デザイン、ネーミング……。大事なのは“らしい”かどうか」

【1-1】言語化されない領域を追い求めて。

雨森:昔から、たくさんのデルフォニックスのオリジナルアイテムや、Smithで売られている商品を愛用していますが、意外とブランドの成り立ちとかは、知らないなと思って。

和田:デルフォニックスは、今も代表を務める弊社の佐藤が創業した会社です。佐藤はもともとデザイナーだったわけでも、文房具に携わる仕事をしていたわけでもなく、ただステーショナリーをはじめとしたデザインプロダクトがすごく好きで。あと、音楽にも傾倒していて、大学生の時にアメリカに行った経験もあり、そこでカルチャー的な影響も受けたみたいですよ。

雨森:社長のご自宅の写真、ネットの記事で見たことがありますよ。ギターがたくさん並んでいますよね。創業はいつですか?

和田:1988年です。『雑貨カタログ』という雑誌が創刊した年で、その前年には渋谷のロフトがオープンしています。時代背景として、“雑貨ブーム”みたいなものがありました。そんな中で、弊社がはじめてリリースしたのが、日付が書かれていないダイアリー。自分で日付を書いていくものです。当時はそういうものがあまりなかったようで、デザインも「手帳といえば黒か茶色」みたいな時代に、すこしヨーロッパテイストのものを発売したんです。

雨森:原点として手帳があるんですね。じゃあ「あくまで自分たちは、手帳屋さんなんだ」というような思いがあるんですか?

宮下:確かに社内では「手帳がスタートだから」ということが、割と重要なキーワードとしてよく出てきますね。

黒本:メインとして手がけてきたのは手帳と、その後にリリースされるアルバムですね。

雨森:じゃあ僕も手帳を買っていてよかった(笑)。つまりカルチャー好き、デザインプロダクト好きの若き社長が、自分が好きなかっこいいものを作りたい、みたいなとことから始まったと。

和田:まさにそういうことですね。

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    現在の商品展開から、ブランドの歴史まで、幅広い知識を有する広報の和田さん。
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    デザイナーであり、現在はより広範囲に及ぶ業務の管理を行う黒本さん。
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    商品開発やネーミングなど、多くのジャンルで活躍中のデザイナー、宮下さん。

雨森:オリジナルのアイテムに関しては、すべて自社でデザインしているんですか? かなりの商品点数があると思いますが。

黒本:はい。すべてやっています。私と宮下、あと数人で。みんな元々はグラフィックや広告業界にいたデザイナーなんですよ。

雨森:デザインをする上で、守らないといけないルールなどはありますか?

宮下:「デルフォニックスらしい・らしくない」という言葉はよく飛び交います。最初はそれがなかなか分からなくて苦労しました。

雨森:それって社内ではぶれないんですか? 「これ、デルフォニックスらしくないな」「いや、めちゃめちゃデルフォニックスらしいじゃん」みたいな(笑)

宮下:確かにとても細かい部分の話だと思います。ベースとなるデザインは、わりとプレーンなモノなので。デザインの最後の詰めの部分というか、そういうところにデルフォニックスらしさがあると思います。書体の並び、文字のレイアウト、余白の残し方……、それら細部に注入する感じですね。

黒本:感覚の共有というか、最初は時間がかかりますね。重ねて、重ねて「最近、分かってきたね」みたいな。

雨森:じゃあ最初は、「これ、デルフォニックスらしくないよ」って言われることも?

宮下:はい、もう数えられないくらい。何回提出しても「デルフォニックスらしくない」という理由で返されるから「あ、私、もう分からないです」って(笑)

黒本:それは私もそうでした。宮下さんが入社してくるだいぶ前に、まったく同じことがありましたね。「だからデルフォニックスらしさって、なによ!」っていう(笑)

雨森:新人デザイナーの通る道!(笑)

和田:“デルフォニックスらしさ”を共有するのは難しいことではありますが、CIのアップデートは定期的にやっています。今は「らしさ」という部分で、「知的であるか、どうか」っていう、スタッフが迷った時に立ち返ることができるポイントがありますね。

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    3名の女性に来訪いただき、取材現場がいつになく華やかです!

和田:佐藤の中には「バート・バカラックの音楽のような文房具を作りたい」っていう思いがあるんです。

雨森:余計にややこしくなりましたね。「あ、はいはい。バカラックのような、ね!」ってなる人、なかなかいないでしょ、それ(笑)

和田:そうですよね(笑)。ただ、メロディーに艶っぽさや色気があって、繰り返し聞いても飽きないし、曲自体は古いのに、なんとなく新しく感じる。そういう文房具です。華美な装飾はなくて、でも単調すぎない。シンプルだけど、どこかチャーミング。そういう普遍性のあるデザインですね。

雨森:なるほど。それはすごくわかります。確かに、なにも考えなければ、身の回りのものって無印でいいんですよね。でもそればっかりだと退屈というか、視界の中のリズム感みたいなものがまったくなくなってしまいます。だからといって、僕ももういい歳なので、奇をてらったようなデザインもよくない。シンプルなものじゃないと、いつか絶対にテンションが下がります。そういう観点で考えた時に、デルフォニックスはちょうどいいんですよね。

宮下:そのちょうどいいと思わせるものこそが、社長の言葉の中に出てくるキーワードでいうと、“色気”かも知れないですね。

雨森:でも、それでもファジーな表現ですよね。デザインにおける色気って。具体的なアプローチとしては、どうやってデザインに落とし込むんですか?

宮下:それもやはり、ほんのちょっとしたチャームだと思います。例えば書体を選ぶとしても、ヘルベチカでかっちり組むと、スタンダードでかっこよくはなるけれど、さらにそこにちょっとしたセリフを入れると、「ぐっと色っぽくなったね」ってなる。

雨森:ん〜、なんと表現すべきか……。ちょっとした“はずし”と言うか、“遊び”と言うか。そういったことですよね。

黒本:あ、そうですね。それを弊社流に言うと、「色気」とか「色っぽい」になるんですよね。

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    編集部の棚には、数字が振られたビュローボックスが4つ。すべて文房具入れです。

【1-2】ここにいるのは、すごい人!

雨森:デザインもそうなんですが、その前にまず商品開発をしないとダメですよね? そこにも携わっているんですか?

宮下:はい。ガッツリとやっております。

雨森:それは、どういった観点から進めていますか?

宮下:たぶん、他のメーカーさんと比べたら、わりと自由だと思います。進め方としては、デザイナーたちがやりたいことを、社内でプレゼンをしていく方式。そこで残っていったものが商品化されていきます。綿密にマーケティングをしてからプレゼンする人もいれば、個人の思いだけで提案していく人もいて。それぞれに任せられていますね。

雨森:じゃあトレンドとか市場のニーズからかけ離れた提案をしても、別に問題にはならないってことですか?

宮下:ぜんぜんOKです。それで商品化されることもありますし。

雨森:商品化される・されないを決めるのは、どういった部分なんでしょう。

黒本:個人の熱量だと思います。その人の「作りたい!」っていう思いがなければ、社内の稟議を通り抜けていくのが難しい。当たり前ですが、上司や販売を担当する人間からは、いろいろなことを言われるんですよね。そこでデザイナーが「あ、ダメか……」って思っちゃうと、そこでおしまい。そうではなくて「それならば、ここを変えて……」みたいな「なんとしても商品化したい!」という情熱ですよね。もちろんそこに完成度が伴っていないとだめですが、最後はやっぱり気持ちだと思います。

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    これが現在つかっている手帳。赤いカバーは、レザークラフトコラムでおなじみ、ねおみのるさん作。

雨森:企画や開発の段階から、製造コストや販売価格など、頭の中でそろばんを弾いているんですか?

宮下:途中からは考えます。でも始まりは「こんなものがあったらいいな」「みんなも、きっとほしいんじゃないかな」っていうところから。最近だと、私は『リサイクルレザー』を使ったアイテムを提案して、商品化にいたったのですが、それは素材から着想を得ました。このオフィスにもある『バンカーズボックス』のようなクラフト系の箱がかわいいなと思ったのですが、すでに似たようなものが世の中にたくさんあるので、それに近いものなんだけど、素材が革だったら面白いなって。

雨森:なるほど。ニーズから発想することもあれば、素材から発想することもある。それらが商品化されて、定番商品になったり、廃盤になったりしているんですね。ただ商品化するには、アイデアを生み出すだけでなく、素材を決めたり、製造工場にかけあったり、さまざまな工程があると思います。それらも担当しているんですか?

黒本:はい。最初から最後まで、担当したデザイナーがすべてやるんですよ。

雨森:え、すごい! どうなんですか? 自分が思いついたものが、世の中に出ていく感覚っていうのは。

宮下:もちろんすごく楽しいんですけど、最後までヒヤヒヤしています。例えば先ほどのリサイクルレザーを使った『P.L.L』シリーズなどは、商品化までが難航したので、だいぶ悩みましたね。量産に向けて素材が確保できるのか、また、匂いは大丈夫なのかなど、問題が無数にあって。何度も試作を繰り返しました。

雨森:もはや、デザイナーという仕事の領域でもなくなっていますよね。年間で、どれくらいアイテムが新しくリリースされるんですか?

和田:新商品は1年に3〜4回、出ます。1回に、どれくらいかな……。もうパッと数字が浮かばないくらい出ていますよ。なかなか他のメーカーさんだとあり得ないんじゃないでしょうか。1回で、だいたい50〜60商品ほどです。

雨森:え! それが年に3〜4回!?

黒本:はい。さらに、1商品に対して、カラー展開があるので、SKUだと300弱くらいは、1シーズンで出ていきます。

雨森:それらがすべて、店頭に並ぶんですか?

黒本:はい。新商品はすべて1回は直営店に並びますよ。

雨森:えー! じゃあ我々が気づいていないうちに、あのお店の中の商品は、かなり変わっているんですね。

黒本:そうなんです。マメに行ってもらわないと、知らないままに廃盤になっているものもあるかもしれません。

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    仕事の相棒、『LIFE』のノートもSmithで。もう10冊目くらいでしょうか。

雨森:デザイナーさんが企画をして、デザインもして、自分なりの「デルフォニックスらしさ」みたいなものを注入し、さらに素材やコストも考え、それをこれだけの点数、これだけのペースでやっているんですね。すごい! みなさん、今日、こんなところにいて大丈夫ですか!?(笑)

黒本:大丈夫です(笑)。まあ、300と言っても、毎シーズン、まったく新しい商品が、それだけの数、出るわけでもないので。

雨森:商品のネーミングもデザイナーの方が担当するんですか?

黒本:はい、それも考えていますよ。「響きが商品に合っているか」から始まり、商標登録されていないもので、呼びやすく、今ある他の商品と似ていない。そういった観点から決めていきます。

雨森:じゃあ「これ、私が名前をつけました」みたいなの、どれかあります?

宮下:あ、え〜っと、まあこのカタログに載っている商品、ほぼぜんぶかな……。

雨森:ほぼぜんぶ! 僕は今日、すごい人と話をしているんだ……(笑)

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    さて問題。いま見えている机の上に、デルフォニックスの商品が何点あるでしょう。(答えは……数えられない!)

(つづく)

P.L.L ボックス A5

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¥3,630(税込)

DELFONICS(デルフォニックス)

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1本のペンと1枚の紙から生まれる文化は、無限大です。
つまり文具は道具であると同時に文化の入り口でもある。
私たちが作る文具は、実用的であるだけでなく、
使う人の感性や創造力を自由にするものでありたいと、考えます。

デルフォニックス公式サイト:http://www.delfonics.com/

デルフォニックスWEB SHOP:https://shop.delfonics.com/