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前回に引き続き、またまたリノスタ編集長からの依頼だ。
今回の依頼はブックカバー 。定番なので過去に何度も作っている。
打ち合わせ時、せっかくオリジナルで作るので、何か他の機能をつけけはどうか? なんて話も出た。例えば付箋を入れるポケットをつけるなどだ。しかし、結局はシンプルでベーシックなものに落ちついた。
余計な装飾をつけるとかえって使いづらくなるものもある。僕自身も自分で作ったブックカバーを使っているが、たしかにカバー以外の機能は必要ない。
そう、それは人間も同じだ。よく見せようと自分を過大に振る舞うことは逆効果だ。シンプルという言葉は「芯に振る」という意味からきているのだ。
いや、今のは嘘だ。なんという冒頭なのだろう。
それでは、作っていこう。
ブックカバーの目的
まずは設計図を描いていく。先にこれをしないと革も余分なサイズで買ってしまうことになる。
描いた設計図を元に、いつもの革屋さんで革を購入してきた。
今回用意したのも、もちろん編集長こだわりの赤。薄く梳いてもらった残りの床革である。
ところで、ブックカバーの目的って何だろう?
もちろん、本を大切に守るため、というのがまず大前提であるはず。
しかしもう一つ大きな目的として、「読んでいる本を知られたくない」ということもあるのではないか?
少なくとも僕はそうだ。読んでいる本を知られたくない。
銀ペンで切り取る線を描いていく。革の折り曲げる方向も考慮しておこう。 革包丁で線に沿って切る。これは集中しないと普通にミスをするので気合いを入れる。
例えば、電車の正面に座った人がおもむろに鞄から本を出す。そのタイトルが
『人生がマジでうまいく五秒前 〜JMU5〜』なんてタイトルの本だったら、どうだろう。
「ああ、この人は人生がうまくいってないのかな?」「果たして五秒間でうまくいくのかな?」なんて思ってしまう。
切り取られたパーツ。ミスはしていない。たぶん。
では『寝て起きるだけで億万長者になれる方法』という本ではどうだろうか。
「ああ、この人、働きたくないんだな、宝くじに全財産をかけるのかな」なんて思われてしまう。
ここで取り出したるはトコノール。
上記の本は架空のものだが、ジャンルでいうと自己啓発の部類だ。
僕は正直、その手の本はよく読む。
満遍なく塗り広げていく。
しかし、読んでいるということをあまり知られたくない。
はたしてこの気持ちはどこから来るのだろうか? 自分をより良くしようと頑張っている姿を見せることが恥ずかしいのだろうか。ほんらい何一つ恥ずかしいことなんてないはずなのに。
少し考えてみた。
トコノールを塗って乾かすと裏地(床・トコ)がすべすべになる。触ると気持ちいい。
読んでいる本を知られるのは恥ずかしい?
本棚を見ると、その人の人となりが分かるという。
たしかに本は顕著にその人の思考や趣味を表すものだと思う。中には性癖に関する本(エロ本)なんかもあるかもしれない。僕も友達が遊びに来る時、事前に隠していたことが何度もある。
前回も使用した焼印を入れる。
読んでいる本を知られるということは、オープンにしていない自分の内面をさらけ出すということかもしれない。だから恥ずかしさを覚えるのではないか?
ふむ。いい感じに押せた。この焼印作業はよく失敗してしまうのでホッとした。
これが今回、僕の出した答えだ。
だからブックカバーは、本を守る以外の目的として、やはり必要だ。
ボンドを塗り、貼り合わせる。
さて、今回のブックカバーは当然、僕が選んだわけではない。
編集長がブックカバー がほしい。と依頼してきたのだ。
『グルーバー』という道具で、縫い目の基準となる線を引く。
何かバレたくない内面が彼にはあるのだろうか。
見ず知らずの人はもちろん、奥さんにも娘さんにも見られたくない内面。
線に沿って穴を開けていく。
いや、僕だってある。きっと誰しもが見せたくない内面を抱えて生きているのだ。
それでも毎日笑って生きていく。それでいいではないか。
そんなことを思いながら僕はトンカチをトントンと打っていく。トントン。トントン。
縫う糸は革と同じ色にするのが、僕は好み。
隠したいもの
見られたくない本で思い出した話があるのでちょっと語ってもいいだろうか。
あれは僕がまだ実家にいた頃、つまりは高校生の時だ。
縫っているときはただただ無心。
当時、下手なりにバンド活動をやっていて僕はドラムを担当していた。
今では新興住宅地になっているが、当時は近所の家も離れており、本物のドラムで音を出しても苦情がくることはなかった。田舎のいいところである。
本の表紙を挟み込む部分は終了。
買ったドラムにはシンバルを入れるケースが付属されていた。
大きく丸いそのケースは、ファスナーで開封できるタイプ。しかし実際にシンバルを持ち運びすることはなく、ただ部屋に置いてあるだけの袋と化していた。
続いては裏表紙を挟む帯を縫う。本の厚さに関係なく使えるよう、このタイプにした。
高校生といえば最も多感な思春期である。
当然、僕もご多分に漏れず何冊もエロ本を隠し持っていた。
こちらも同様に穴を開け、縫っていく。
しかひ、ここで誰もがぶち当たる壁に出くわす。
そう、エロ本をどこに隠すか問題だ。
当時の僕の部屋にはベッドがある。押し入れもある。いっけん隠し放題である。
ほぼ完成。あとはしおりをつければ完成。
では押し入れか。いや、押入れも危険だ。なぜなら押し入れにしまわれているのは、僕の物だけではないからだ。いつ誰が勝手に開けるかわかったものじゃない。
万事休す。エロ本の大ピンチだ。
そこで僕が見つけた絶対にバレない隠し場所。それは……
同様に穴を開けて縫う。
そう、シンバルケースの中だ。ここなら絶対に誰にもバレるはずがない。
かくして僕の平穏な日々は保たれていたのだ。ありがとうバンド活動。
やっと完成! 深い赤色はやはりしぶい。
ブックカバー に自分の本を入れて使い心地を確かめてみる。うん。良い出来だ。
編集長はここにどんな本を入れるのだろうか。いや、それは聞く方が野暮ってものか。
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ところで、僕は高校を卒業後、実家を出て大阪で一人暮らしをすることになった。
その時、母に言われて心に残った言葉があるので最後に紹介したいと思う。
「あんた、シンバルケースの中の本、処分しときなさいよ」
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