可能性は屋上にあった。都会で楽しむ晴耕雨読の暮らし【菜園長屋】

土をいじり、自分で食べるものを自分の手でつくる暮らし。ご近所さんとのなにげない会話や持ちつ持たれつの関係。
東京23区の賃貸住まいでは、なかなか手に入らないですよね。毎日の生活に直結しない場所や時間をもつことは贅沢とさえ、言えるかもしれません。
けれども、こんなかたちなら都内でも土にふれ、心豊かに暮らせる場がつくれるのではないか。今年、大田区に誕生した「菜園長屋」はそんな可能性を示してくれました。

「段々畑をつくろうと思うんだよね」

実は、今でこそ「菜園長屋」としてオープンしましたが、初めは屋上に菜園をつくる予定はありませんでした。当初のプランで屋上にあったのは、テーブルのある大きな庭。それがなぜ、菜園になったのでしょう。

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    菜園長屋を企画したクリーク・アンド・リバー社の鈴木さんに伺いました。

「菜園長屋のオーナーさんは地場の不動産会社で、大田区の海側のエリアを活性化していこうという意欲あふれる会社さんなんですね。そこで、最初のご要望で、地域のコミュニティの拠点になるような場をつくりたいというお話があったんです。この敷地は旗竿地で、建築にあたってはさまざまな制限がありますが、長く価値を提供できるような建物にしたいと考えていらっしゃいました」

旗竿地というのは、道路に接する面積が狭くて、奥が広くなっている旗竿のようなかたちの敷地。こうしたところでは安全性を確保するために、法律上、さまざまな条件が課されています。つまり、一般的な敷地よりも建物の設計が複雑で難しいということ。

「クリーク・アンド・リバー社は多様なジャンルのプロフェッショナルのエージェンシー事業を展開しており、建築分野では約1000名のパートナーがいます。そのネットワークを活かして、建築士を紹介してもらえないかというのが最初のご相談だったんですね」

  • 次の内覧会に向けて、こんな演出をしたのもオーナーさん。

クリーク・アンド・リバー社は多様な建築士のなかから3名を推薦。コンペを通じて、オーナーさんが選んだのは建築士の吉村靖孝さんの提案でした。

「この敷地条件では、一戸建てか長屋しか建てられません。コミュニティをつくるには複数世帯が住める長屋にするしか選択肢がありませんでした。ですが、長屋は共用部を持たない形式です。交流できる場をどうつくるか。そこで、注目したのが屋上でした。屋上は法律上、共用部とはみなされません。吉村さんの提案はそこに木を植え、大きなテーブルを置いて、住人の集う場にするというプランでした」

オーナーさんはその提案を気に入ったものの、コストが見合いません。紆余曲折を経て、吉村さんの頭にひらめいたのが現在の菜園長屋のプランでした。

  • どこもかしこもコスト・デザイン・機能をプロが総合的に考えた上で導き出された意味のあるかたち。

「今でも覚えています。雑色駅のホームで『段々畑にしようと思うんだよね』と言われて。もうその時には絵が浮かんでいたんでしょうね。我々も屋上が畑になるということは分かったのですが、途中まではこんなかたちになるとは想像がつきませんでした」

木造3階建ての屋上に段々畑をつくるという試みは前例のないこと。別の場所で野菜の成長を検証するなど、試行錯誤をしながら計画を進めていきました。

「菜園には境界部分に柵をたてることも検討しましたが、外すことにしました。野菜づくりを始めると、会話が尽きないんです。実際に私も菜園づくりに関わってみて、それを実感しています。情報交換をきっかけに隣近所との会話が広がればと考えました。

一応、区切ってはいますが、隣人との関係ができれば話し合って、菜園をシェアするのもいいと思っているんです。たとえば、忙しくて世話ができない人が、隣の人に少し場所を譲ってあげて、その代わりにできたものをお裾分けしてもらう。そんなこともありですよね」

たしかに、屋上という特殊な環境で野菜を育てようと思えば、共通の課題や目標もあって話がはずみそうです。

  • 土づくりや病害虫対策など、協力しあえば収穫も増えるかもしれません。

そういえば、各家の玄関側には大きな窓があり、そこから家に帰ってくる人がよく見えます。ご近所さんで仲良くなったら、窓から「おかえりなさい」と声をかけたりするのかな、なんていうイメージもわきました。
それぞれの家は独立していて生活は重ならないけれど、なんとなく同じ長屋に住む同士、顔見知りにはなれるようになっていて、ちょうどよい距離感を保てそうです。

ちなみに、今後は菜園でのイベントも予定されていて、入居者だけでなく地域の人々にも開かれた場所にしていく予定だそう。

都会の空に誕生した段々畑には、ここが長屋の住人そして地域の住民のコミュニティの核になってほしいという願いが込められていたのでした。

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PHOTO by Yusuke Nishimura

菜園長屋

屋上に菜園のある長屋形式の賃貸住宅

木造地上3階建て
総戸数6戸(Cタイプ51.06㎡〜)、
月額家賃13万円〜(管理費別)
2017年1月下旬より入居開始

施主 株式会社メイショウエステート
企画 株式会社クリーク・アンド・リバー社
設計 株式会社吉村靖孝設計事務所
施工 株式会社リクレホーム

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