vol.17 スティックケース作りを通して思う。遅いことは何もない

今回の依頼は、たしかツイッターのリプのやりとりからはじまった。

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    柿うま太郎という名前は秋になったら梨うま太郎に変わる。

この会話の3人ともドラマー・元ドラマーという共通点がある。間違いなく僕だけ下手くそなんだけど、便宜上並べさせてもらっちゃおう。

ちょっと説明しておくと、柿うま太郎(なんて名前だ)こと、有井くんは出会った頃はびっくりするくらい長い名前のバンドをやっていた。昔、なぜか大阪から滋賀のライブハウスまでライブを観に行ったこともある。
その後、その名前が異常に長いバンドは「RATVILLE」と名前を変えダブバンドとして進化。関西で活躍した後、現在は休止中となっている。
というわけで今回はそんなRATVILLEのドラマー、有井くんのスティックケースを作成しますよ!

基礎が大事

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    今回の革。さて、どう作ろうか。

上記で記した通り、僕も14歳から18歳までドラムをやっていた。思い返すとたった四年間だ。短い。

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    設計図。今回、細かいサイズは決めずフリーハンドで作ることにした。

始めたきっかけは中学の文化祭でヤンキーの先輩のライブを見たこと。ありがちな話だ。

そしてバンド経験者は誰もが通るようなコピーバンドから始まり、文化祭デビュー。高校生になると手頃なライブハウスで友達を中心にライブを行うようになった。

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    余裕がないサイズなので考えながら割り振りを決める。

イヤホンから流れるフレーズを何回も何回も繰り返し聞いて耳コピをする。当時はそんなことに夢中で青春を音楽に捧げた。

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    断裁。失敗すると後がないのでプレッシャーがかかる。

僕が思い出す高校時代って女の子のことと、バンドのことしか覚えていない。

部活を中途半端にやめた僕にとって、もしバンドをやっていなかったら本当に冴えない高校生活を送っただろうなと思う。

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    おお、いいんじゃないかな。

ドラムは完全に独学だった。いきなり曲のコピーから入ったのでいわゆる基礎を全部すっ飛ばした。バカだったので基礎は不要だと思っていた。

基礎がないと必ず行き詰まる。

しかし、当時はそれが大元の基礎がないからだと気づかない。もっと複雑なことが叩けるように、もっと手数を多くするように、そんなさらなる高みの技術が必要だと思ったのだ。

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    スティックを入れるポケット部分をあててみる。なんとかなりそう。

そんなある日、行き詰まりを打破するために隣の駅前にある某音楽教室に入ってみた。

初心者コース。5、6人が同時に講座を受けるタイプの教室だった。

つまらない音楽教室

左右でタンタカタンタカ。次は右右左左でタンタカタンタカ。

初日にして最高につまらなかった。

曲がりなりにも俺はもうこの曲もあの曲も叩けるんだぞ。もうライブハウスでライブもしてるんだよ、というクソみたいなプライドがあった。

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    ポケットはぴったり長方形にしがちだがそうするとスティックを差し込む膨らみの余裕がなくなる。実は膨らみの分だけ台形になっている。

2回目の教室。初回と内容はほとんど変わらない。もちろんつまらなかった。

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    裏側はいつものトコノールでざらつきを滑らかに。

「先生、早くかっこいい叩き方を教えてくれよ〜」と思いながらタンタカとスネアを叩いていた。いや、左右で音のバランスもテンポもぐちゃぐちゃで全然叩けてないんだけどね。

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    チューナー(太鼓の張りを調整するねじ回しのような道具)を入れるためのポケットをつけておく。

アラサー公務員Kさん

その本当はとても大事だがつまらない講座が終わって、さて帰ろうかと教室を出た時だ。

「ねえ、よかったら一緒に帰らない?」

振り返ると一緒の時間に初心者教室を受けていた人が立っていた。メガネをかけた真面目そうな青年だ。30歳くらいだろうか。しかし当時の僕からすると20台後半以降はおっさんにカテゴライズされる。

「え? いや、別にいいっすけど一駅だけですよ」
「車だから送るよ」
「はあ」

この方、Kさんとしておく。

「そうかー、ねおくんはもうライブとかもしてるのかー。すごいな〜」

Kさんは大人風を吹かすわけでもなく一回りくらい年下のぼくにも対等に接してくれてたように思う。いい人だった。

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    薄い革って縫いにくいんです。

車の中で僕は疑問に思ったことを聞いてみた。

「Kさんはなんでドラム始めようと思ったんすか?」
「う〜ん。僕ね、公務員なんだけどまあ、なんか毎日同じ繰り返しのような気がしてね。それで何か楽器でも始めようかと思ったのね。なんかドラムってでかいじゃない? 楽器として。あれ叩けたら気持ちいいだろうな〜って思ったんだよね」
「……ふ~ん。そうっすか」

この時、僕が思ったことを正直に言おう。

「その歳からはじめて何か意味があるのかな?」

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    ポケットをつけていきます。

何かを始めるのに歳は関係ない

Kさんは僕を自宅まで届けてくれた。なぜいきなり僕に話しかけたのか、送ってくれたのかもよくわからない。たぶんきっとドラム友達のようなものが欲しかったのだと思う。

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    袋部分に穴を開け縫っていく。

しかしKさんとはそれ以来会うことはなかった。

僕はそれきり教室に行かなくなってやめてしまった。

こんなつまらない基礎をずっとやらされて、月謝だけが無駄に消えていくと思ってしまったからだ。

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    袋がついた。もう一息で完成。

当時のKさんの年齢をすっかり超えた今思う。

「今この瞬間が自分史上、一番若い」「何かを始めるのに年齢は関係ない」

そんな言葉をSNSのタイムラインで見たことがあるだろう。

そして特に何も思わず、もしくは、少しイラっとしてその言葉を流したんじゃなかろうか。

でも、やっぱりこれらの言葉は真実だ。

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    こんな付属パーツを作成。

僕が登山を始めたのは33歳、ランニングを始めたのは34歳、フルマラソンを完走したのが35歳。ちゃんとブログを描き始めたのが37歳。noteでコミックエッセイを描き始めたのが38歳。

全部、立派なおっさんになってからだ。

あの時、腹の中でバカにしたKさんのことを笑う資格なんて何一つない。

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    巻いた時の紐をあててみたけど、これはちょっとダサいな。没! イエー!!

もし当時に戻れるなら自分を殴ってやりたい。ついでに基礎はめっちゃ大事だとコンコンと説教もしたい。

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    完成。あえて革の切りっぱなしを活かしワイルドなものになった。

あの時、Kさんのチャレンジはささやかなものだったのかもしれない。しかしとても素晴らしいことだと思う。

Kさん、真面目そうだったしコツコツと基礎を習得して、きっと今もいいドラムを叩いてるんじゃないかな。

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    フロアタムに取り付けるときは別途ベルトで取り付けるやり方にした。

人生なんて短い。だって気づいたらあっという間にアラフォーになってるもん。

きっと10年後も20年後もあっという間だって思ってるんだろうな。そしてきっと死ぬ間際も思うんだろう。

「人生あっという間だったな」って。

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    しまう時はこうして上部分を折って被せて。

実は来年からまた一つ新たなことを始めようかと思っている。

若い時の自分に言わせると意味あんの? 遅すぎない?? ってな話だよ。ふふふ。

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    くるくると巻いて持ち運ぶのです。

最後に

僕はダブに関しては詳しくはない。

でも今回の作業をしている最中、なんとなくRATVILLEの曲をBGMとして流してたんだけどやっぱね、かっこいいんですよ。

いつであろうと遅いなんてことはない。再開してくれないかな、とひそかに思っている人間の一人ですよ。僕は。

で、締めにRATVILLEのwebサイトを紹介したいところなんだけど、オフィシャルサイトを覗くと知らないおっちゃんが出てくるんですよね。

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    こんなメンバーいたっけ? でもいい笑顔!!

なのでyoutubeにアップされている動画だけ紹介しておきます。

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ねおみのる

profileneo

普段は普通のサラリーマン。
あるとき独学でレザークラフトを始め見事にはまる。

以来、頼まれた物など失敗や試行錯誤を繰り返し作り続けている。

今欲しい物はリアルに革漉き機とミシンだが、部屋に置く場所が多分ない。