実は最近、マンガを描くことが多い。
Adobeのフォトショップに板タブレットを使って描いている。
基本的に仕事が終わってからの夜、または休日に描くのだが、家というものはどうしても誘惑が多くサボってしまう。
そのためカフェで作業をすることもたまにある。
持ち運びの際、ノートPCは専用のハードケースに入れるのだが、現在タブレットとペンは裸でそのままカバンへ入れている。これはあまりよろしいとは言えない。
よし、ここは日頃お世話になっているタブレットのケースを作ろうではないか。
なぜケースを作るのか?
しかし、「ケースなんて別に百均のものでもいいのでは?」とふと頭をよぎった。身もふたもない。
いや、そこになにか意義があるはずだ……。少し考えてから、普段意識する洋服や靴などの見た目のかっこよさと同じかもと思った。
人間は別に裸でも生きてはいける。いや、気候や温度を考えると寒ければ服を着なければいけない。熱くても裸だと日に焼けてしまう。
そこで機能として服を着る。しかし機能を満たしていれば何でもいいわけではない。
たいていの人は機能とは別に好きな色やデザインを求めるだろう。
タブレットケースも同じだ。本来的には衝撃から守る機能さえあれば見た目など何でもいいはずだ。しかし、それでも見た目のかっこよさを求めるのはなぜなんだろう。
ケースがお気に入りのものだと単純にテンションが上がる。テンションが上がるといい気分でマンガを描くにしろ何をするにしろ、いい結果につながるのではないか。
機能だけでなく見た目を求める理由はそういうところなのかもしれない。
裁縫箱の憂鬱
少し話は変わるが思い出したことがある。
小学生の頃、家庭科の授業があった。そこで裁縫道具が必要になる。
ある日、裁縫道具購入のためのプリントが配られた。いくつかのデザインの中から選択し、お金と一緒に先生に提出するものだ。そこにはフィリックス・ザ・キャットなど当時はやったキャラクターの写真が並んでいた。
僕は三兄弟の末っ子だ。末っ子の宿命として、“お下がり”というものがある。
僕の裁縫道具も当然お下がりということになった。
しかし僕はこれにひどく抵抗した。
なぜか? その裁縫箱のデザインがあまりにも古き良き和のテイストだったからだ。
どういうわけか兄が使っていた裁縫箱のデザインは、和服で髪をくくった男の子が和服で野原を走っている。筆のタッチで描かれ箱もきな粉のような渋い色味だった。
一目見ただけで思わず田舎に帰省したくなるデザインだった。
今の僕だとむしろその和風のデザインを「これ渋くてめっちゃいいっしょ!」と喜んで愛用していると思う。
しかし少年の僕にそのわびやさびを感じろというのはとうてい無理な話だった。
周りのみんなはフィリックス・ザ・キャットのナウでヤングなお裁縫箱。
それに引きかえ僕は、ノスタルジックで郷愁を思い起こさせるお裁縫箱。
なんで僕だけお下がりでこんな裁縫箱を使わないといけないんだ……と母親に泣きながら訴えた。
しかしその主張は当然通らなかった。
そして初めての裁縫の時間がやってきた。
本来ならば楽しいはずの家庭科の授業。しかし僕は憂鬱でたまらなかった。
この裁縫箱をみんなに見られたら、笑われるのではないか。そんな恐怖がずっと頭の中にあった。
授業がはじまり、みんながピカピカのフィリックスの裁縫箱を取り出す。
僕は暗い顔で裁縫箱を机の上に出す。きっとダサいと笑われるのだろうなと思いながら……。
しかしみんなは笑わなかった。
あまりにも僕が暗い顔をしていたせいか、周りの反応はひどく優しかったのだ。
自虐的に「兄のお下がりで恥ずかしいよ……この裁縫箱……」と呟いても「ん~そう? 別にいいんじゃない」とまで言ってくれる奴もいた。たまたま僕の周りにいい人が多かったのだろう。
こうして笑われなかったことに安堵し僕は返し縫いやまつり縫いを習ったのだ。
あの時、僕は何が嫌だったのだろうか? と思う。
みんなと同じではないのが嫌だったのだろうか? それとも単純にデザインが嫌だったのだろうか??
おそらく後者だったのではないかと思う。
もしもあの和風のデザインがガンダムやロボット、ヒーローものだったら僕は逆にそれを誇って自慢していたと思うのだ。
年齢を重ねた今でさえ、何かものを買うときは機能とデザイン、どちらも含めて総合的に買うかどうかを判断する。
本質的には当時と何も変わっていないではないか。
そしてそれがうまくいくと気分が上がり結果的にいいものができる。
今回ケースを作ったことでカフェでも臆さずにタブレットをお気に入りのレザーのケースから取り出し、きっと良い作業ができるようになるはずだ。そう期待したい。
でも多分すぐにアイパッドを買うと思うけど……。
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