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子供の頃通っていたピアノ教室では、発表会の時期になると先生がそれぞれの生徒に合わせて、ちょっと難しいけどがんばれば弾けそうな曲を選んでくれた。
発表会で弾きたい曲があれば言ってね、とも言ってくれたけど、まだそんなに曲を知らないので、毎年先生が選んでくれた曲を弾いていた。
友達はよくリズミカルで華やかな曲を弾いていたけれど、先生が私に選んでくれるのはなぜか毎年静かで少し陰のある、しんみりとした曲ばかりだった。
それが少しコンプレックスだった。こういう地味なのが合いそうと思われているのかぁ、自分ではそんなつもりないのにいつもおとなしい子って言われるし、まぁそうなのかなぁ、と。
明るくて元気ですぐ友達ができて、先生とも冗談を言い合ってかわいがってもらえて、そんな子に憧れていた。なかなか自分を出せないとはいえ相手から見えている私も私の一面には違いない、と受け入れられるようになってからだいぶ経つけれど、根っからのほがらかな空気をまとった人には今も憧れる。
そんなことはすっかり忘れていたつい最近のある夜。
とても疲れて元気が出なくて、静かで落ち着く曲が聴きたいなと思って再生してみたら、あの頃つまらないと思っていたなんかしんみりしたピアノの曲たちが、驚くほど心にしっくりときた。めちゃくちゃ優しくて落ち着く……。気付いたら、何度も何度も聴いていた。楽しいものを見て笑うよりも、明るい曲を聴いて踊るよりも、無理なく元気が出た気がした。いてくれてありがとうという気持ちになった。「これもいいよね」じゃなく「これがいい」だった。
あの頃出会ってなんとなく通り過ぎた曲たちに出会い直せてうれしい夜だった。
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