独自のタッチとスタイルで、クールなチョークグラフィックを次々と残していく人気アーティスト、名前もずばりの、チョークボーイ。インテリアショップやカフェ、アパレルショップといったオシャレな場所で最近よく見かける“黒板とチョーク”による空間アレンジを手がけていきます。
今回は、自身の作品が随所に見られる『オニバスコーヒー中目黒店』にて、普段はあまり見ることができない下書きなどに使うノートを見せてもらいながら(しかも写真まで撮らせていただきました……)、そして軽くペンを走らせてもらいながら、お話を伺いました。
ラベルから学び、進化しつづけるスタイル
チョークボーイにとって、チョークと黒板で表現をするきっかけとなったカフェでのメニュー描き。まったくの未経験だった当時、参考にしていたのは『ワインのラベル』だったそうです。
「ラベルの中にはすごくたくさんの情報が入っています。まず銘柄やブランド名がデカデカとあって、その周りに生産国や地域、農園の名前、ぶどうの品種、製造方法や内容量など、本当にいろいろな文字が並んでいる。それらが、限られたスペースの中で上手にレイアウトされていますよね。
そんなラベルをたくさん見ているうちに、重要な情報とそうでもない情報を大小のメリハリで表現したり、フォントを変えることで意味を分けたりしていることが段々と分かってきます。
あと、瓶自体が丸いので、それに馴染むように曲線をうまく使ったレイアウトになっているんですよね。今思うと、ラベルをたくさん見ていたことが、すごく勉強になったと思います」
要素の大小やフォントなどを使って情報を整理することで、見た目の良さを担保しつつ、伝えるべき情報をきちんと伝える。どうやらグラフィックデザインの核とも言える考え方を、知らず知らずのうちに体得していたようです。
彼が手がけたワークスをよく見ると、確かに1枚の中に大小さまざまな要素が配置され、また文字の部分には複数のフォントが使われていることが分かります。
「例えば、このオニバスコーヒーで描いたものだと、メインとなる『ONIBUS COFFEE』という文字はセリフ(=文字の飾り)が付いたフォントですが、太いところと細いところの差を出さないようにして、ちょっとポップに見せています。あと塗る面積が多い方が、よりチョークの質感が出るので、全体的に太らせたフォントを使っていますね。
その下の腕の部分に描かれている文字。ここは読めても読めなくてもいい情報なので、デザインを重視して筆記体を使っている。腕の中に文字を入れることでタトゥーみたいな感じもあって、コーヒーカルチャーっぽいかなって。その他の小さい文字は飾りで、これも最悪読めなくてもよい情報です」
そしてもう1つの特徴としては、モチーフとなるイラストやさまざまな絵、図形などが、文字に負けることなく存在感を放っていること。
「コーヒーカップのイラストを加えることで、パッと見で『コーヒーに関する情報なんだ』って分かるようにしています。
文字による説明がなくても何の情報なのかが分かるということは、見る側との距離を縮めるということで、それはつまりキャッチーさやポップさにつながります。だからモチーフとなるイラストをできるだけ入れるようにしていますね」
まず目に飛び込んでくるビジュアルとしてのインパクトやクールさがあって、さらに必要な情報はしっかりと伝える機能性もきちんと有している。それがチョークボーイの作品の特徴かもしれません。
その中で、特に際立っているのが、文字への意識の高さ。1つ1つがのびのびと躍動しているように思えます。
「ワークショップなどでもよく言うんですが、アルファベットは1日あれば、ある程度描けるようになるんです。26種類しかないし、 「F」と「E」みたいな似たものもあります。それに、カタチのルールもしっかりしていて、例えば「A」という字は、どれだけ自由に描けと言われても、逆三角形にはならないですよね」
ワインのラベルから学んだ方法論を、さらに自分なりに昇華させて出来あがったチョークボーイのスタイル。話を聞いていると、普段は何も考えずに使っているアルファベットたちも、それぞれに個性が見えてきて、とても新鮮で、興味深く感じます。
「ただ、難しい文字もありますよ。たとえば「S」は激ムズ。細いピッチから始まって太くなっていって、また細くなる。しかもカーブし続けていますから。
ボクが好きなのは……「K」とか「R」とか。右下に伸びていく部分が、すごくセクシーですよね(笑)」
彼が残した創作物を見ると、メインとなる要素はアルファベットによる装飾のように思えます。
日本語はあまりチョークとは馴染まないのでしょうか。
「そんなことはないですよ。もちろん日本語を描くこともあります。カフェで描き始めた頃は、メニュー名だったので、むしろ日本語ばかりでしたね。
ただ、やはり本当に難しいんです。その理由はいくつかあって、まずカタチ自体が難しい。たとえば「あ」と「A」。どちらがキレイに描くのが難しいかというと、圧倒的に「あ」ですよね。
あと、日本人向けに日本語で描くと、当たり前ですけど読めてしまう。すると英語みたいに、“デザインで逃げる” ことができません。これがなかなかやっかいなんです」
誰でも読めてしまい、即座に意味が伝わってしまうこと。これが逆に視覚的な直感性を妨げることがあります。日本人には意味が分からない英語のメッセージTシャツが、何となくオシャレに見えるのと同じですね。
ちなみに、小さなころから字がきれいな少年だったのでしょうか。
「まったくそんなことはありません。でも日本語も描き続けていると、コツが分かってきますよ。
例えばひらがなやカタカナは、字の中にスペースが多いので、その部分が膨張して見えてしまい、大きく感じます。なので漢字と比べると95%くらいに描いた方がいいですね。あと、ひらがなの「す」や「み」などにある丸く囲まれた部分を大きく描くと、子供っぽい字になるんですよ」
PHOTO by Kaori Nozaki
CHALKBOY(チョークボーイ)
カフェのバイトで毎日黒板を描いていたら、どんどん楽しくなってきて気がついたら仕事になっていました。
東京をベースに世界中、黒板のあるところまで描きに行きます。最近は黒板以外のものにもチョーク以外で描くようになりました。ほなチョークボーイちゃうやん。
関西出身です。
公式サイト:http://www.chalkboy.me/
EATBAT!:http://eatbeat.jp/