独自のタッチとスタイルで、クールなチョークグラフィックを次々と残していく人気アーティスト、名前もずばりの、チョークボーイ。インテリアショップやカフェ、アパレルショップといったオシャレな場所で最近よく見かける“黒板とチョーク”による空間アレンジを手がけていきます。
今回は、自身の作品が随所に見られる『オニバスコーヒー中目黒店』にて、普段はあまり見ることができない下書きなどに使うノートを見せてもらいながら(しかも写真まで撮らせていただきました……)、そして軽くペンを走らせてもらいながら、お話を伺いました。
どちらともとれる、何かと何かの“間”の場所
飲食店を中心に、インテリア・エクステリアのアクセントとなるイラスト・文字を描いたり、CMに使われる楽曲を制作したり、食と音楽をつなげた実験的ユニット『EATBEAT!』での活動をみせたり……。多彩なアウトプットで大活躍中のチョークボーイ。
黒板、そしてチョークとの出会いはいつ、どんなタイミングだったのでしょうか。
「“出会い”なんてカッコいいものではないですよ。バイトをしていたカフェで、黒板のメニューを描き換えるっていう業務があっただけなんです」
場所は大阪の中心地、梅田にあるオシャレカフェ。当時、彼がバイトとして働いていたその場所で、スタッフが交代で担当する「本日のメニュー」を描き換えるというタスクには、30分が与えられていたそうです。
「1日に3品ほどなので、消して描いても15分弱で終わります。だから、ササッと描いて残りの15分をサボりたい、みたいな感覚でダラダラと描いていると、『もっと早く描け!』と怒られたことがあって。
そこから怒られない描き方を考えて、『お店のために~』とか適当に理由をつけながら(笑)、もう少し時間をかけるようになりました。それが始まりかな」
業務的にやらざるを得ないから。怒られたくないから。そんなひょんなことから、黒板✕チョークの表現がスタートします。
しかし当時のチョークボーイが漠然と思い描いていた未来に、「チョーク」や「描く」という要素はなかったとのこと。
「高校の時にグラフィックデザインの勉強をして、すごく興味を持っていたし、その頃からタイポグラフィがとても好きでしたけど、描くことを仕事にしようなんて、1ミリも思っていませんでしたね。どちらかと言うと、音楽をやっていきたいと思っていました。
でも小さな頃から、文字は特に好きでしたね。と言っても、文章が好きだったり、読むことが好きだったわけではなくて、デザイン・造形としての文字です」
いくら小さな頃から好きだったといっても、ビジュアルとして成立するレベルのイラストや文字をすぐに描けるようになるとは思いません。
カフェでメニューを描くまでに、実際にやってみたことはなかったのでしょうか。
「当時から音楽活動をやっていましたが、僕は曲をつくる際、楽譜の代わりに音からイメージできる言葉や絵、図形みたいなものを描いて残す方法をとっていました。
最初に頭の中で鳴らした音を忘れないために、何かしら描き残す必要があるんですよね。でもジャンル的に楽譜では表現できなくて。そこで、雰囲気や温度感、物質感などを、そこから連想される言葉や絵に落とし込んで描いておくという作業をずっとやっていたんです。
例えば『朝の8時に、腰くらいの高さの草が生い茂った草原を光の玉が飛んでいるような……』みたいな、ほとんどポエムみたいなものだったり(笑)」
はじめに浮かび上がってきた漠然とした音のイメージ。そのふわふわとしたカタマリのようなものを、後から自分でもう一度思い出せるように、抽象度を残したまま記述しておく。そんな一種の特殊能力とも言えるような工程を、昔から当たり前のようにやっていたようです。
「その作業をやる中で、もともと文字が好きだったこともあり、言葉で残しておく時は、けっこう時間をかけてしっかりと描いていたんです。結果的には、それがいい訓練になっていたのかもしれません」
音楽とグラフィック、文字とイラスト、食と音楽……、あらゆる要素をかけ合わせ、また手にするツールを変え、表現者としての姿までもしなやかに変化させながら、さまざまにアウトプットしていくチョークボーイ。
そのクリエイティビティの根幹の部分には、どんな意識があるのでしょう。
「ボクは何かと何かの間、みたいなものにすごく興味があるんです。分野と分野を横断するギリギリのライン辺りで、“どちらともとれる”みたいなモノ。
たとえば、僕が描いているチョークの絵や文字も、アートなのかグラフィックなのか、みたいなところがあります。そもそもチョークってしっかり描いているのか、ラフに描いているのかも微妙ですよね。下書きなのか完成なのかも分かりにくい。
だから、僕もキレイに描きすぎないようにしています。あまり細いチョークは使わず、精巧に描かれたプリントみたいにならないように意識していますね」
何かと何かの“間”。その言葉こそが、多彩を極めるチョークボーイの表現を考える上で、重要なヒントとなりそうです。
PHOTO by Kaori Nozaki
CHALKBOY(チョークボーイ)
カフェのバイトで毎日黒板を描いていたら、どんどん楽しくなってきて気がついたら仕事になっていました。
東京をベースに世界中、黒板のあるところまで描きに行きます。最近は黒板以外のものにもチョーク以外で描くようになりました。ほなチョークボーイちゃうやん。
関西出身です。
公式サイト:http://www.chalkboy.me/
EATBAT!:http://eatbeat.jp/