独自のタッチとスタイルで、クールなチョークグラフィックを次々と残していく人気アーティスト、名前もずばりの、チョークボーイ。インテリアショップやカフェ、アパレルショップといったオシャレな場所で最近よく見かける“黒板とチョーク”による空間アレンジを手がけていきます。
今回は、自身の作品が随所に見られる『オニバスコーヒー中目黒店』にて、普段はあまり見ることができない下書きなどに使うノートを見せてもらいながら(しかも写真まで撮らせていただきました……)、そして軽くペンを走らせてもらいながら、お話を伺いました。
もっとクロスオーバーできる方法をもとめて
最近はブルックリンスタイルのインテリアが流行っていることもあり、黒板を生活に取り入れている家庭も多く、必要なアイテムも比較的、容易かつ安価で手に入るようです。
もちろんチョークボーイも、自身の著書やワークショップなどを通じて、チョークグラフィックのあるライフスタイルを提案しています。
上手に描くためのポイントや、楽しくチョーク生活を送るコツなどはあるのでしょうか。
「まずは『TO DO』とか『今日の献立』とか、描き換える必要のあるものから描くこと。つまり、“消す前提”のものです。残ると思うと描くのが億劫になります。
仮にあまり上手じゃなくても、毎日描き換えられているものの方が作品として生き生きとしている感じがして、ボクはいいと思います。そこから入って、次はたとえば『Shampoo』『Treatment』とか『PEPPER』『SALT』といった、入れ物の名前など、消さないものを描くのもいいですね」
すぐに消すと分かっているものから。カフェのメニューからスタートしたチョークボーイならではのアドバイスかも知れません。
では実際の描き方の面で、アドバイスはありますか?
「自分が簡単に描けるフォントではなくて、ネットで検索するなどして、気に入ったフォントを参考にして描いた方が、時間はかかりますが圧倒的によくなります。やっぱり真似がすごく重要ですね。
あとは、情報整理を少し意識すること。たとえばボクの絵も、 1つの文字だけを切り取って見ても、オシャレでもないし、何の雰囲気もありません。そこに文字の大小やフォントの使い分けなどがあるから、成立してると思います。
そういう情報の整理が、実はものすごく大事ですね」
そもそもチョークグラフィックは「情報を伝える」「モノゴトを便利に進める」といった目的があって描かれるもの。彼の残した作品も、絵はただ絵として、文字はただ文字として配置されているわけでなく、常に機能を伴って存在しています。
「あと、上手くなるためにもう1つコツがあります。それは描いたものをインスタグラムにあげること。やっぱり練習量が変わりますね。『上手に描けた時だけ、あげる』くらいの意識でいいと思います。反応が良ければ、絶対に次も描こうと思いますから。みんな“コソ練”するようになるんですよ(笑)」
機能としての美しさと、見た目としてのカッコよさの“間”で。また音楽とグラフィックの“間”で。食と音楽の“間”で……。
どのジャンルにも当てはまらない“間”の場所を自分のフィールドとすべく、チョークボーイはこれからも模索し、追求し、表現していきます。
「絵を描くのも、音を奏でるのも、世の中的には違うこととされていますが、ボクとしては似たことをやっているだけなんです。それをもっとクロスオーバーさせる方法がないかなと思っているんですが、なかなか難しいですね。
たとえばチョークが黒板と当たる音をリアルタイムで録音しながら演奏する、みたいなことをやったことがあるんですけど、いまいちコンセプトがお客さんに伝わりにくかったり。
でも、食と音楽をかけ合わせたEATBEAT!のように、分野と分野の間、みたいな表現はまだまだあると思います」
ストリートカルチャーっぽいし、アートっぽさもある。清書のようだし、下書きのようにも見える。イラストや文字を描いていると思えば、音楽もやる。音を奏でながら、食も扱う。どの枠にも収まらないから、自由に動ける。自由に動けるから、もっと面白い表現ができる。
これからの彼の活動も、まったくもって予測不能。でも我々が考えもつかないような“間の場所”で、また新たな作品を届けてくれるでしょう。
PHOTO by Kaori Nozaki
CHALKBOY(チョークボーイ)
カフェのバイトで毎日黒板を描いていたら、どんどん楽しくなってきて気がついたら仕事になっていました。
東京をベースに世界中、黒板のあるところまで描きに行きます。最近は黒板以外のものにもチョーク以外で描くようになりました。ほなチョークボーイちゃうやん。
関西出身です。
公式サイト:http://www.chalkboy.me/
EATBAT!:http://eatbeat.jp/
WRITER'S VOICE
アートであって、アートでない?
約20年前。通っていた高校と最寄り駅の間にあったモ◯バーガーのバイトさんが、お店の前の黒板にちょっとした挨拶やメッセージを毎日描き換えていたことを思い出しました。書いてある内容が変に前向きだったり、キャピキャピしていたりしたので、最初は少し白い目で見ていたけど、気付けば毎日ちょっと気になったりして……。やっぱりこういう表現は意味や目的を伴っている方がいいですね。
いや、別にアートに目的や大義なんてなくてもいいんだけど。ってことは、チョークグラフィックって、いい意味でアートではないのか。いや、でもアートか……。ん~、つまり、“間”ってことかな……。