大阪の中心地を南北に切り裂く『なにわ筋』と『新なにわ筋』の間、大通りから少し入った小道沿いに、突如、ヨーロッパの町並みを切り取ったような異空間が現れます。そこが、店舗の設計やデザイン、住宅のリノベーション、新築の注文住宅などをてがける『9株式会社』の事務所であり、スタジオ、ショールームなどとしても使われるビル。
“クセの強い”その建物の中に足を踏み入れてみると、外観を超える驚きが。そして、中にいる人の話を聞いて、さらにビックリ……。ただならぬ人がいる、ただならぬ場所だったのです。
まずビジュアルありき。頭の中の絵に現実を近づけていく。
約10年間にわたり、ファッションの世界で美的感覚を磨きつづけた後に、建築業界の門を叩いた久田さん。その期間がなければ、今の自分はないと語ります。
「日本の内装やインテリアは、世界的に見ると、まだまだセンスが遅れています。もともと私たちの先祖である日本人は、“和”の世界観で、すごく美しい建物をつくり、伝統的なセンスにもとづいて生活をしてきました。ただ、戦後、その価値観を捨てて、西洋のマネゴトに躍起になってしまう。これはとても残念なことです。音楽もそうですよね。
ただ、ファッションはそうではありません。特にストリート・ファッションにおいては、世界中でもっとも工夫やチャレンジが見られるのが日本なんです。海外では、伝統的な文化やルールからあまり逸脱することなく、もっとオーソドックスに服を着ている。でも日本人は、そんなルールを知らないから、例えばタキシードにデニム合わせるようなことを平気でやっちゃいます」
伝統的な枠を取っ払って、果敢に“攻めて”きた日本のファッション。その中にどっぷりと浸かってきた久田さんは、戦いの土俵を変えた今も、そのとがった感性を忘れません。
「施主さんとの打合せの中で、街のハウスメーカーでも建てられるような一般的なデザインに落ち着きそうな場合は、そのお話はお断りします。我々が『デザイン料』として、フィーをいただく意味がないですからね」
ナインが手がける意味。そこにこだわりを持ち、それを徹底的に追求し、クライアントと真正面からぶつかっていく。その打合せの中のキーワードも、やはり『ファッション』だそうです。
「僕の場合、その人の服装を見れば、どういったテイストの家が好きなのか、だいたい分かります。もちろんすべてではないですけど、実際に話をしてみても、最初に服から想像したものと、大きくイメージが外れたことはないですね。
服装にこそ、その人の趣味嗜好が現れるものですから」
服飾の世界と比べて、住宅や店舗の設計、インテリアのデザインなど、空間を手がける面白さや醍醐味は、どういったところにあるのでしょう。
「ファッションでいうと、服のサイズの中だけで表現するわけですから、やはりキャンバスが狭いんです。しかも、そこに機能性も求められますし、自由にデザインできると言っても、ソデとかエリとか、ある程度くずせないカタチもある。
その点、例えば住宅のリノベーションだったら、自由度が増すので、自分の表現したい世界観を落とし込みやすいですよね」
まさに“ビジュアルファースト”。存在自体がアートとして成立しているような、言わば「観賞用」ともとれるナインの施工事例は、どのようにつくられていくのでしょうか。
「僕はずっとカメラもやっていたので、出来上がりのイメージというか、『こう撮影したい!』という絵が、まず先に浮かぶんです。その頭の中にある完成形に向かって『ここに照明を入れて』『その奥に棚を置いて』……と、パースが完成されていく感じですね。
つまり、先に間取りを決めて、図面上で『ここがリビングで……』『ここに収納を……』と決めていくのではなく、ビジュアル的な観点から空間をつくり上げていって、結果的にその場所がリビングになったり収納になったりしていく。一般的なアプローチとは、逆の道筋を辿っているのかもかもしれません」
話を聞き、実際の施工写真を見ると、確かにそのビジュアル的なインパクトは絶大で、どれも思わずときめいてしまいます。ただ、住宅は、あくまで人が住み、生活をする場所。やはり普遍的な使いやすさや住みやすさも必要なのでは? と不安が残るのも正直なところです。
「それは大丈夫。共存できるんです。だって、例えばユニクロの服とコム・デ・ギャルソンの服。当然どちらも着ることができますよね? 要は、TPOによる違いがあるだけの話ですから」
PHOTO by Yusuke Nishimura / 9株式会社より支給
9株式会社
PUNK PRIMITIVE PURE「前衛で、素朴、純粋なデザインを」
9の永遠に追求するデザインコンセプトは「前衛、素朴、純粋」。
9は案件の大きさではなく、共感できる方との仕事を優先させて頂きたいと考えていますから、予算が少ない場合も遠慮なさらないでください。
あなたとお会いできるのを楽しみにしています。