「暮らし」をテーマにコラムを書くことになったけれど、平凡な街で平凡な暮らしをしている私はおもしろエピソードのストックが乏しく、いつも何を書けばいいのやら、と悩んでいる。
最先端のものが生まれるような都会に住んでいるわけでもなく、窓の外に雄大な大自然が広がるほどの田舎に住んでいるわけでもない。どこにでもありそうな郊外の住宅街で暮らしている。
この街のことをちょっと退屈だなと思っていた時期もあった。
子が歩けるようになってすぐの頃、ただ歩くだけでとても楽しそうな子と、特に行き先もなく(時には子に行き先を任せ)、大人の足で10分ほどの距離を1〜2時間ぐらいかけて散歩をするようになった。
子が生まれるまではスタスタと目的地までを歩くだけだったから気づいていなかったけれど、木の実を集める子につきあって同じところでずっと立ち止まっているうちに気がついた。
ここにはキツツキもいるし、蝶もいるし、17歳のチワワも住んでいる。道端の木や草花の種類も豊富だし紅葉もきれいだ。人の数より木が多いぐらいが散歩にはぴったりだし、こんなにきれいな散歩コースがたくさんある街に住めてうれしいなぁと思えた。
ベランダから外を眺めていたおじいちゃんは、私たちに気付いてみかんをくれた。毎日仲良く散歩する老夫婦は、子とすれ違うときに「また会うたなぁ!」とハイタッチをしてくれた。ひとりでまっすぐ歩いていたらきっと道端で立ち止まってお話することはなかったであろう人たち。
自分で歩ける喜びを全身で表現する子について行くだけで、いろんな人やものに出会えて、世の中がとても新鮮に見えた。
子は3歳になり、いつのまにかあの頃のように散歩のためだけに散歩をすることはほとんどなくなってしまった。ひょいと抱えて帰れる重さではなくなったので、途中から抱っこで帰る可能性を考えたら自転車の方が楽だな、と自転車で出かけることが増えた。自転車は快適だけれど、以前のような発見や出会いはまたぐんと減ってしまった。
子が歩くようになったばかりの頃の宝探しのような長い長い散歩のことを、これからも何度も思い出すのだろうな。
amycco.
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