「from Nakameguro to Everywhere」
世界的アーティストであるコーネリアスは、2001年にリリースした名盤『POINT』の副題に、作品への矜持も込めて、「Nakemeguro=中目黒」という地名を冠します。
あれから十数年。サブカルチャーの聖地だったこの地も、少しずつ様相を異にしました。相変わらず多くの若者が行き交うものの、音楽の匂いも、カルチャーの匂いもあまりしてこない。良くも悪くも、中目黒は生まれ変わった。昔を知る人は、皆そう口にしています。
しかし今、この地で新しいムーブメントが生まれようとしているのです。キーワードは“価値観のリミックス”。中目黒近辺に生まれ育ち、街の変遷を見続けた1人の男が見据える先にあるのはどんなものなのでしょうか。
とある店舗に、取材依頼が殺到する理由とは?
中目黒駅を降りて、山手通りを10分ほど歩き、細い路地を1つ入ったところ。飲食店が立ち並ぶわけでもなく、コンビニもスーパーもありません。落ち着いた住宅街にひっそりと佇むその場所こそが、ムーブメントの発信地、カセットテープショップ「Waltz」です。
店舗に到着したわれわれを、店主の角田氏が迎えてくれました。
「お店の営業は午後から。でも最近は午前中に取材や撮影が入ってばかりです。ほぼ毎日ですね」
実はテレビや雑誌など、各種メディアに引っ張りだこなこの場所。どこまでもフォトジェニックな空間に、女性向けのファッション誌や、映画のロケ地にまで使われる人気ぶりも頷けます。
角田氏のもとに取材依頼が殺到するのには、もう1つ大きな理由があります。それが彼の持つ経歴。今では一部で“伝説の”レコードショップと称される「WAVE」のバイヤーからキャリアをスタートさせて、その後、なんとアマゾン ジャパンの立ち上げに参画したとのこと。
「アマゾンにいたのは約14年。2001年にアマゾン ジャパンのCDとDVDの事業が立ち上げられるのですが、そこの準備段階からいました。CDとDVD部門が軌道に乗った後は、書籍部門の責任者になり、さらにその後、日用品などの消費財部門の責任者を歴任しましたね」
簡単な話、エリートビジネスマンなのです。そんな彼が、地元である中目黒でカセットテープショップを営んでいるという事実。話題になるのは想像に容易くあります。
PHOTO by Kaori Nozaki